第19話 成人式


「えっ?なんで?」

島に来てようやく慣れてきた頃だった…

最初ははぐれもの同士で仲良く飲んでいたのだが、そのはぐれもののグループが島では話題になっていた。

このグループは楽しいので、どこの飲み屋に行っても歓迎されるようになっていたのだ。

金遣いはいいし、金払いもいい、飲み屋としては最高のお客様だった。

休みの前の日は、暗黙の了解で決まった店に集まってきていた。

「金城おせーじゃねーか、今日も儲かったのか?」

「いえ、今日はぼろ負けしていたので、取り返すので必死でした。今まで粘ってようやく半分は取り戻しましたよ、一時4万円くらい負けていたので泣きそうでしたよ」

「じゃ、4万円負けたと思えば2万円儲かったんだな、今日も金城のおごりか?(笑)」

「勘弁してくださいよ先輩、最近勝てないんですよ」

ヤケになっている時は勝っていたパチンコも、飲み仲間ができて、何とか儲けようと思うと勝てなくなっていたのである。

「冗談だよ、今日は俺がおごるよ」

「あざーっす」

そこには田島先輩をはじめいつものメンバーが5人くらい揃っていた。

最初は、はぐれものの集まりだったのだが、島の店や自衛隊でも話題になり、気がつけば人気のグループになっていたのである。

そこには、業務隊、電子隊、整備隊、無線班、通信隊など、様々な隊が集まっており、前代未聞だった。

通常は、自衛隊では派閥があり、決して他の隊の人間と仲良くなることはないのである。

お互いに仲が悪く、同じ隊の人間としか付き合わないのがお決まりなのだが、みつおのグループがこのセオリーをぶっ壊して、隊の壁を無くし、気の合うもの同士の集まりになっていたのである。

そして、このグループが面白いので、他の人も寄ってくるようになっていたのである。

そんなある日…

「島の人たちとの関係を深めるために、成人式は全員島の式典に出るように」

それは基地司令官からの通達だった。

強制ではないが、ほぼ強制的なものだった。

休暇予定が取り消されたのである。

みつおは、成人式は地元で出る事になっていた。

地元の友達から連絡がきて、友達同士で袴で参加するという事になっていたので、成人式に合わせて冬季休暇を申請していたのだが、班長に勝手に変えられたのである。

島の自衛隊生活も楽しくなってきた矢先のこの仕打ちである。

みつおにとって、自衛隊に入ってから三度目の裏切りに合った気分だった。

「やっぱり辞める」

みつおは固く決心したのだった。

その年の成人式には、5人の同期が同時にその島で参加したのだった。

あまりにもつまらな過ぎて、式のことはどうでもよかった。

式の後の二次会で大暴れしようと思っていた。

いつもの店で、同期5人でドンチャン騒ぎをしているところに、田島先輩も加わり、あと他のいつもの先輩も一緒になって、朝まで騒ぎまくったのだった。

それから更に半年が経った頃

「えぇ、今日から赴任になりました出口3曹です。趣味はギャンブル、お酒、チョメチョメです。よろしくお願いします」

京都の方から新しく転機してきたのだった。

前の職場で一緒だったという人からは、とんでもない奴が来るから気をつけろよと言われていた。

噂通り、自己紹介からとんでもない事をいう先輩だった。

みつおは関わらないようにしようとしていたのだが、その先輩は来る前からみつおの噂を知っており、みつおに興味を持っていたのだった。

「よぉ、金城1士、噂は聞いてるよ、仲良くやろうじゃないか」

「はぁ、よ、よろしくお願いします」

みつおは社交辞令で終わらせてなるべく関わらないようにしようと思っていたのだが

「きんちゃん、C班やろ、一緒やな今度の休みに島の飲み屋に連れてってくれよ」

「は、はい」

なんだか知らないが、やたらと馴れ馴れしくされて不満だったが、先輩に逆らうわけには行かないので、仕方なく一緒に飲みにいく約束をしたのだった。

「ちーっす、今日から飲み仲間になります、出口3曹です。よろしくお願いします」

最初は下手に出てみんなに挨拶していたのだが

「いやぁ、ここはすげーな、別々の隊が入り混じって呑んでるなんて、よその基地ではありえへんで、きんちゃんがこの伝説を作ったんやろ、尊敬するわ」

だんだん調子に乗ってきて、

「まぉまぁ、もう一軒行こうや、明日みんな休みやろ」

いつの間にか仕切っているのだった。

噂通り、とんでもない先輩だった。

次の週から当たり前のように

「きんちゃん、今日もいつもの店やろ、儲かったら俺がおごるから、きんちゃんが儲かったらきんちゃんのおごりな」

なんだか知らないが勝手に決められているのだった。

しかし、二人とも負けた時には

「きんちゃん、俺が5,000円出すから後よろしく」

「えっ?5,000円全然じゃ足りないっすよ」

「ま、そう言うな、来週はおごるからよ」

何だか調子が狂う先輩にムカつきながらも、話は面白いので、飲みに行くと2人でも盛り上がっていたのだった。

手に負えない2人を抱えて職場は頭を悩ましていたらしいが、2人はおかまいなしに、職場でもパチンコの話や飲み屋の話で盛り上がっていたのだった。


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