発達障害克服してみた 第三章 ②依存症説ってどういうこと?

 この記事は(2022/01/10にリライトしました) 

 前回からの続きです。

 発達障害の真の原因とは何か色々と調べていく中で、発達障害の原因に迫った考察を見つけました。それは、ケアレスミスの項でも紹介した来未炳吾さんの考察でした。彼の主張を一言で述べると、「発達障害は依存症である」というものでした。詳細は彼の書籍を見てもらうとしてざっくりと説明すると、最初に彼がこの発想に至ったのは彼自身が数年間苦しんだパチスロ依存症についてでした。頭では「やってはいけない」と分かっていてもついついのめり込んでしまう典型的なパチスロ依存症でしたが、ある日のこと、この「やってはいけない」という自身への禁止令が逆に「やりたい」という気持ちを強化させることに気づきます(心理学ではこれをカリギュラ効果と呼びます)。

 そこから、この依存症の苦しみが発達障害の苦しみと非常によく似ていることに彼は気づきました。つまり、発達障害者はずっと「ケアレスミスをしてはならない、常識通りにふるまわないといけない」などと念じ続けるのですが、逆にケアレスミスをしてしまったり周りから浮いてしまったりと真逆の結果になってしまうことが多いというものです。発達障害の苦しみはこの依存症のメカニズムと全く同じではないかと彼は考えたわけです。

 その後もこの依存症と発達障害を紐づけるという観点から、様々な論が展開され非常に深い考察となっています。その詳細は彼の書籍を読んでいただきたいのですが、最終的にそこから彼が編み出した解決法というのは出来る限り自分の周りから依存の対象となる様々な刺激物から距離を置くことでした。薬物の依存症なんかも芸能人のニュースを見ればわかることですが、更生施設などに隔離して徹底的に薬物から距離を置かせるわけだから、決して間違ったやり方ではないと思います。

 実際にこれによって彼は非常に平穏な暮らしを現在手に入れているわけですが、私はこれに少し残念な思いを抱きました。なぜなら、現代社会というのは人を依存させる様々な刺激物に溢れており、それらを回避して生きるということは非常に困難だからです。また、定型発達者は問題なくこれらの依存物質と付き合っているにも関わらず、我々と違い依存症になりません(発達障害様症状を示さない)。これに関しては来未さんは依存症になりやすい体質というのが存在しているといった解釈を示していらっしゃいますが、どうもすっきりしないというか、腑に落ちない感覚がありました。

 そこで、私はこの来未さんの考察をさらに自分なりに発展・拡張させ、「依存症」というキーワードを足掛かりに考察を重ねることにしました。例えばアルコール依存症などの何らかの依存症に陥ってしまい治療したい場合には、これらの原因物質から最大距離を取れるような専門の施設に入所して、原因となる物質を徹底的に断って治療するというのが一般的です。このような発想に至るのは、人を依存症にさせるのは、あくまでその原因物質そのものが人を依存症に陥らせるからだと考えているからです。
 しかし考えてほしいのですが、仮にアルコールそのものがアルコール依存症をもたらすのであれば、少なくとも20歳を迎えた日本人は少なくとも一度はアルコールを摂取した経験があるはずですから、ほぼ成人全員がアルコール依存症に陥っているはずです。まあ、アルコールの場合は違法薬物とは異なり合法的なものであるため、人を依存症にさせる力自体が弱いのだと言ってしまえば説明がつくのかもしれません。

 ところが、一般的に一度手を出したら抜け出すことが出来ないとされる違法薬物であっても、摂取して依存症にならない人がいるという事実はご存じでしょうか?参考記事としてこちらの記事を紹介します(薬物依存に陥らせるのは、薬の作用というより「孤立」)。詳細はリンク先の記事を参考にしてもらいたいのですが、結局の所依存症の原因というのはアルコールや薬物といった物質ではなく、それを摂取する人の心理状態(強く孤立感を感じている等)が大きく影響するというのが真実です。また、紹介した記事内におけるマウスを用いた実験での孤立というのはマウスにとっては非常にストレスフルな状況らしいため、最終的な結論としては依存症に陥る人というのは孤立している人というよりもストレスフルな人という風に言い換えることが出来るでしょう(参照:ストレスと依存症の深い関係)。
 
 ここまでの話を軽くまとめると、来未炳吾さんは「発達障害は依存症である」と述べ、さらに上記で述べた研究から「依存症はストレスフルな人間が陥るものである」ということが言えます。この二つを合わせると、三段論法的に「発達障害の人間はストレスフルな人間である」と言えることになります。

 ところがここで一つの疑問が生じます。我々が一般的に「ストレス」と考えるもの(例えば学校でいじめられたとか、会社で上司からパワハラを受けたとか、恋人からフラれた)は例に挙げたように全て後天的に生じるものです。ところが、発達障害というのは先天的で生まれつきの障害ですので、発達障害の原因を「ストレス」に求めるなら、先天的なストレス(つまり生まれたときから強いストレスを抱えている)というものが存在しなくては論理が破綻してしまいます。正直なところ、生まれたばかりの赤ん坊は無垢な存在という思い込みがあったので、まさか赤ん坊に先天的なストレスなど存在しないだろうと思っていました。ところが、色々と調べてみると驚くべき事実が判明したのです。何と親を含めた先祖から子供にストレスやトラウマがプリインストールされるという信じられないような事実があったのです。
 一例をあげると「虐待などの幼少期のストレスは遺伝子レベルで受け継がれてしまう可能性」といった記事や書籍の「心の傷は遺伝する」など様々なエビデンスが存在しています。マウスの実験のみならずヒトの大規模な研究からもストレスが先天的に与えられるということはほぼほぼ間違いないということが明らかとなっているのです。このような事実から私は、発達障害の原因を以下のように考えました。

原因=出産直前までに与えられたストレスによる脳の機能障害

 あらかじめ断りを入れておきたいのですが、この結論はちょっと危険な面も孕んでいて、それは「発達障害は親のせい」という風に読めてしまうということです。私自身は発達障害を持つ親御さんを責めるつもりは毛頭なく、一つの仮説を単に論じているということだけは伝えておきたいです。そして、親である貴方もまた誰か(つまり祖父母)から生まれてきており、祖父母もまた曽祖父母から生まれているわけなので、あなた一人のせいではないということを重ねて伝えておきたいです。実際に上記で紹介した「心の傷は遺伝する」では祖父母や曽祖父母の人生が影響を及ぼす事例も存在していることは頭に入れていただけるとありがたいと思います。加えて、発達障害は親の教育・育て方によるものではないということは既に分かっていますが、育て方ではなくそれ以前の問題ですので、このような事実とも矛盾はしないものと思っています。

 このストレス説を採用することでいくつか発達障害の性質が直接的もしくは間接的に説明できます。次回はそれについて少し詳しく述べることとしましょう。
 

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