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赤い糸の呪い

僕が何度振られてもケイコさんに告白をし続けたのは、僕の小指からケイコさんの小指まで繋がる赤い糸が、僕にははっきりと見えていたからだ。僕の運命の相手は絶対にこの人なんだ、いつかきっと振り向いてくれるんだ。そう信じて何度も想いを伝えて、そのたびにこっぴどく振られ続けてきた。

いつになったらケイコさんは僕の想いに応えてくれるんだろう?いつかケイコさんにもこの赤い糸が見えるようになるのだろうか?振られ続けて4年目の夏、僕はいつものように振られた帰り道でそんなことを考えていた。赤い糸が繋がっている以上、いつか結ばれる運命の相手なのは間違いない。しかし想いが届かないのはとてもつらいものだ。僕はケイコさんに振られ続ける日々に疲弊しきっていた。いっそこんなもの見えなくなれば、ちぎれてなくなってしまえば楽になれるのに。そう思ったが、赤い糸はどうやっても切れず、消えてくれることもなかった。僕は赤い糸が首に巻きついて息が出来なくなる夢をたびたび見るようになっていった。その頃から僕はもう壊れ始めていたのだと思う。

いつしか僕はケイコさんに毎日告白するようになっていた。大学の構内で、会えない時は電話やメールで。もはやケイコさんに伝わるような情熱さえ僕は失っていた。惰性で、義務感で、いつものルーティンで、僕は告白を続けた。当然彼女は僕を気味悪がって避けるようになった。彼女は僕の知らない場所へ引っ越し、電話番号もメールアドレスも変えられて連絡すら出来なくなった。それでも僕の小指からは赤い糸がはっきりと見えていて、これを辿れば彼女のところまで辿り着けるのだ。だけど僕にはもうそんなことをする気力は消え失せていた。

こんなものさえ見えなければ、愛なんてものがなければ、僕はこんな風になりはしなかったのに。彼女を諦めると誓った日から、僕は自分の手を、赤い糸があるだろう自分の小指を視認するスイッチを切った。赤い糸さえ見えなければ僕は幸せなんだ。程なくして僕は全ての人間の手が認識出来なくなった。だからと言って困ることは特にない。赤い糸の呪いに縛られていたあの頃の方が僕は辛かった。あぁどうせ振るならあの時、赤い糸なんか見えぬと言って断ち切ってくれたら良かったのに。そうしたら僕はきっと、誰か当たり障りのない人をまた愛せたかもしれないのに。叶わぬ願いを胸の奥底に沈めて、僕は虚ろな視線を地面に落としてふらふらと歩く。ぼんやりした視界をいくつものかかとが横切って行った。

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