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呪いの市松人形

「……祖母の形見の市松人形なんですが、夜な夜な髪の毛が伸びるんです」

日本で除霊師なんかをやっていると、髪の毛が伸びる呪いの人形にはたびたびお目にかかるものだ。しかしこれは日本独特のもので、世界ではあまり見られない例だということを、世界除霊師学会の会合に参加して初めて知った。これは何か理由があるのかもしれない。私は知人のツテを使ってミスカトニック大学の研究チームに協力を仰ぎ、古い日本人形の髪の毛が伸びる仕組みを解析することに成功した。それは呪いではなく、人形の塗装に使われている絵の具が経年劣化によって酸化した際に稀に生成される化学物質が原因で、除霊によってそれが止まるのは除霊に使われる塩と反応することによるものだった。

私たちはこの研究結果を元にさらに研究を重ね、画期的なAGA治療薬『ICHIMATSU』の開発に成功した。薬に関する権利のいくつかをアメリカの製薬会社に譲渡して莫大な財産を手にした私は、鎌倉の外れに家を買って静かに暮らしている。一介の除霊師にすぎなかった私が、薄毛に悩むたくさんの人たちを救う治療薬の開発に関わることが出来たのは幸運もあったのだと思う。どこの馬の骨とも知れない私と研究を共にしてくれたミスカトニック大学の皆、研究に出資し、私に充分に利益が行き渡るように配慮して権利を買ってくれたアンブレラ社の製薬部門の皆には大いに感謝している。

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