見出し画像

デートに誘うということ

これは個人的な話ではなくあくまでも一般論なのだが、好きな人をデートに誘う時、映画『サマーウォーズ』の名シーン「よろしくお願いしまーす!!!!」みたいなテンションでLINEの送信ボタンを押すことがよくある。

好きな人を誘うというのはとても勇気が必要なものだ。断られたらどうしよう、僕みたいなもんが声を掛けるだなんて迷惑じゃないだろうか?それでも会いたい、ええいままよ!ぐるぐると巻きついてくる葛藤を振りほどいて渾身のお誘いを送ると、ふぅ…とひと息ついてお茶を飲んだりする。よくやったぞ俺、ひとまずミッションクリアだ。勇気を持って行動したことに対しては褒賞が与えられて然るべきだ。好きな人をデートに誘うたびにボーナスが貯まって、5つ集めるとデート確定ガチャチケットが貰えたらいいのにとソシャゲ脳で考えたりする。

当然お誘いのために送る文面にも当局の厳しいチェックが入る。「ご飯でも行こうよ?」だと軽すぎるし、「ご飯でも行きませんか?」は堅すぎるかもしれない。「お食事でもいかがでしょうか?」なんてあえて他人行儀な言い方にしてみたり、「おランチでもどうかしら?」とか「ご一緒しませんこと?」なんてお嬢様言葉にしておどけるのは僕の……いや、一般的な成人男性のよく使う常套手段だ。こちらのノリに乗っかって、「いいですことよ」なんて返信が来たら最高なのだが、なかなかそうもいかないものだ。こんな風におどけた文章が既読スルーされたりしたら目も当てられない。

デートのお誘い先が「ご飯」でいいのかという問題もある。見たい映画があるんだけど一緒に行きませんか?上野でこんな美術展があるんだけどどうですか?サンシャイン水族館で猛毒のある生物展やってるんだけど行かない?相手が興味を持ちそうな企画を立案して短い文章でプレゼンするのはとても難しい。何故なら僕にとっては行き先なんてのは実はどうでも良くて、好きな人に会えさえすれば何でもいいというのが本音だからだ。本当は「ウチくる?」とか「ホテルでも行かない?」なんて下心ど真ん中の直球を投げたい気持ちをググッと飲み込んで、「焼き肉行こうぜー」なんて無難なコースに球を投げたりもするのもあるあるだ。下心も愛情表現だと受け取ってもらえる場合もなくはないが、私の身体が目当てなのね!と否定的に取られる場合もある。恋愛の機微というのは難しいものだ。

もう20年ぐらい前のことだが、「来週の水曜日会えたらとても嬉しいんだけど、平日だし難しいよね?」なんて控えめなお誘いをしたことがある。この時の『来週の水曜日』は、僕の誕生日だった。『誕生日をあなたと一緒に過ごしたいです』をまっすぐ言えず、こんなややこしい言い回しになってしまったのは男らしくないと言えば男らしくないが、それでもきちんと意思表示をしたのは不器用なりに頑張ったぞと若き自分を褒めてあげたい気持ちだ。「平日はちょっと難しいかな…」と一旦難色を示された後に、「待って!水曜日ね!?大丈夫!遅くなるかもしれないけど行くよ」と言ってくれた時には、後半ロスタイムに逆転ゴールを決めたサッカー選手のような気持ちだった。いや、どちらかと言うと選手よりも自分の戦術プランがハマって結果が出た監督の気持ちだったかもしれない。そんなわけで一緒に過ごした誕生日は今でも忘れられない素敵な夜だった。相手はもうとっくに忘れているだろうけれど。

たかがデートされどデート。好きな人に会いたいから声を掛ける。たったそれだけのことがどうしてこんなにもややこしいのだろう。もう少しフランクに、フラットな気持ちでスマートに誘えるといいのになと毎回思うが、こういう性分はなかなか変えられないものなのだろう。これからも顔を真っ赤にして鼻血を出しながら、「よろしくお願いしまーす!!!」と絶叫してお誘いを送るのだろう。もしそんな機会がありましたら、何卒前向きにご検討いただけますと幸いで御座います。

この記事が参加している募集

よろしければサポートいただけると、とてもとても励みになります。よろしくお願いします。