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好きな人の名前をググッてはいけない

僕がよし子の名前をネットで検索したのは、好きな人のことをもっと知りたいという純粋な恋心からだった。

よし子というのはありふれた名前だが、よし子の苗字はかなり珍しいもので、フルネームで検索すればきっと何か引っかかるだろうと思った。具体的に何かを期待していたとかそういうことではない。ほんの出来心、単なる好奇心だった。何気なく名前を入れて検索した結果、僕はよし子が、13年前に広島で起きたあの事件の唯一の生き残りであることを知ってしまった。

研究施設から脱走したモンスターによる忌まわしい事件だった。駆けつけた警察と自衛隊によってアイツが『駆除』されるまでに出た犠牲者は42人。当時の森本総理が引責辞任することにまでなった事件だった。あの事件の、あの研究施設の、唯一の生き残りがよし子だった。あの時ワイドショーを賑わせた『研究所の少女』、それがよし子だったのだ。

全員が凄惨な殺され方をしている中、無傷で施設内を歩いていた10歳の女の子は、当時様々な憶測を呼んだ。職員の娘さんで、その日はたまたま見学に来ていたらしい。何故彼女だけ無事だったのか?どうしてアイツはたまたまその日に暴走してしまったのか?そこには何らかの因果関係があるのではないかということで入念な検査が行われたが、結局よし子には何ら特異な点は見つからなかったのだという。しかしあの日そこによし子はいて、よし子だけが何故か襲われずに無傷だったのは確かなことなのだ。

あの日もう1匹逃げ出したとされる実験体4号は、今も行方が分からないままだ。そして今、この街を騒がせている通り魔殺人事件がある。あの時の『研究所の少女』が住むこの街で、凄惨な殺人事件が2件も続けて起きている。これは果たして偶然なのだろうか?僕は何かとんでもない真実に辿り着こうとしているのではないだろうか?僕はただよし子が好きで、よし子のことをもっと知りたいと思っただけなのに……。そんなことを考えながらとぼとぼと歩いていたバイト帰りの夜道で、僕は突然現れたあの恐ろしい怪物に殺された。怪物の傍らにいた背の高い女が誰だったのか……それを伝える術は僕にはもう、ない。僕がただ一つ言えることは、好きな人の名前を安易に検索してはいけない、ということだけだ。

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