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時をかける女子大生

自慢じゃないけど私は美人だった。しかし大学2年の夏休み、バイト中に油を顔に浴びて大火傷を負い、焼けただれた醜い顔になってしまう。それは何度人生をループしても覆せない運命だった。そう、ループだ。私は大学生活の4年間を何度もループしながら、火傷のせいでまともな就職も出来ず、あれだけモテモテだったのに恋人にも逃げられる大学生活から抜け出すべく足掻き続けてきた。

どうしてこんなループが出来るようになったのかは分からない。あまりにも酷い運命に、神様が助け舟を出してくれたのかもしれない。大火傷の顔で卒業式を終え、絶望と共に帰宅すると私は光に包まれ、大学1年の春、入学式の日に戻るのだ。おそらくこの絶望を何とかすれば私は先に進めるのだ。

最初の数十回は何とかして火傷を回避しようと試みた。しかしそれは徒労なのだと分かった。バイトを変えても、家で身を潜めていても、大学2年の夏休みのどこかで、何かしらの理由で火傷をしてしまうことは変わらなかった。これは逃れられぬ運命なのだ。火傷することは受け入れて、その後の人生をどうにかするしかない。まず思い当たったのは1年のGWから付き合い始める恋人のアキラくんだった。アキラくんは焼けただれた私の顔を見るとすぐに離れて行ってしまった。何とかアキラくんをつなぎ止められるようにと努力したが、火傷をすると離れて行くのは確定しているらしい。もういい!私はとりあえず恋愛面での幸福を目指して色んな男を試してみることにした。

私が美人であったことは幸いだった。何もしなくても大学じゅうの男が言い寄ってくる。出来るだけ優しくて、火傷をしても私を捨てないでいてくれそうな、かつある程度のスペックを備えた相手を選んで付き合った。テニスサークルのタカシ、同じゼミのシュウイチ、心理学の講義で同じだったヤスヒコ……。半ばヤケクソになって色んな男と付き合ったが結局みんな一緒だった。最初はみんな良くしてくれるけど、火傷した顔を見るとゆっくり遠ざかっておしまい。男なんてそんなもんだと絶望しかけていた何十回目かのループで付き合ったのがユウジくんだった。

正直他の男たちと比べるとパッとしない男だった。容姿も普通、背が高いわけでもなく、面白いわけでもなく、特別に何か秀でたものがあるわけでもない。ただ優しくて、私のことを大切にしてくれる人ではあった。火傷をしてからも病室に毎日通ってくれて、ようやく包帯が取れて無惨な顔を晒したあとも離れずに一緒にいてくれた。こんな人は初めてだった。ようやく私を捨てない人を見つけられた!大学4年の春のある夜、私はユウジくんを試した。私と別れて欲しい、と言ったのだ。こんな顔になってしまった私と無理して付き合うことはない。あなたに迷惑をかけたくない。もっと普通のいい人がいるはずだ、と。そんな私にもユウジくんは優しかった。私はユウジくんと結婚の約束をした。

その世界線でも就職は決まらず、私は卒業後は在宅のウェブライターのバイトをしながら主婦になることに決めた。そして迎えた速記の日。ユウジくんと手を繋いで、最高に満ち足りた気持ちで帰宅するや、私はまたあの光に包まれたのだ。何で!?私は幸せなのに!!そして気づくと私はまた入学式の日に戻っていた。一体何が足りなかったんだ……私は絶望した。

どうやらユウジくんは、私が入院していたりする隙に、色んな女と浮気を繰り返していたらしい。元大学のアイドルだった美女と付き合い、彼女が顔面に火傷を負っても捨てない優しい男というブランドは想像以上にモテ力をもたらすようだ。他の男たちもひと通り試してみたが、私を捨てずにいてくれるパートナーはどうやらユウジくんだけのようだった。ユウジくんを繋ぎ止め、浮気をさせぬままに卒業式を迎える……おそらくそれが私のハッピーエンドなのだろう。正答率1パーセントの幸福な未来に向けて、私はまだ戦い続けている……

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