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猫のいない家

今の家から行きつけのスーパーに行くまでの道の途中、庭先に時々猫がいる家があった。天気のいい日は日向で平たくなって寝ていたり、ちょこんと座って路地裏を見張っていたりした。お家の前を通るたびに、今日は猫ちゃんがいないかなと思って庭を覗いたものだ。昨日、久しぶりにその家の前を通りかかった。

そういえば最近猫がいるのを見掛けなくなったなぁ。いつだったかそう思ってからも、もう半年以上経っていることにふと気付いた。少し注意深く庭を見てみると、あれだけ手入れの行き届いていた綺麗な庭が荒れている。窓は雨戸が閉じられ、表札も取り外されていた。もうこの家には誰も住んでいないんだ……そう思うと何だか寂しい気持ちになった。

どんな人が住んでいたのか、何があって今は誰もいなくなったのか、僕は何も知らないし、今後も知り得ることはない。ただ、たまに庭先に猫がいるのを見掛けては、勝手に嬉しいなと思っていた。それだけのことだ。猫に会えなくなったからと言って僕の人生に何かがあるわけでもない。まして僕に会えなくなったからと言って猫ちゃんの猫生に何かがあるわけでもない。それでも僕は寂しいなと思うし、どこかで元気にしていてくれたらいいなと願わずにはいられない。

猫のいなくなった家の前を通って、ひとり暮らしのアパートに帰ってくる。例えば猫とかそういったものの、温もりが恋しくなる季節だ。

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