見出し画像

鬼になった吉田

吉田はいわゆるいじられキャラだった。少し小馬鹿にしていじってやると、大袈裟なリアクションをしてくれて、それがとてもおかしかった。みんなが吉田で笑って、吉田もそれを喜んでいるのだと思っていた。

例えば友達みんなで遊ぶ算段を話しているような時、吉田は、「俺も行く!」と混ざってくる。俺たちは決まって、「吉田が行くならやめとこうかな…」なんて言った。吉田は、「なんでだよ!」と言って怒って見せる。「吉田はよく遅刻するしなぁ」「吉田がいるとつまらないからなぁ」俺たちが重ねていじると吉田は決まって更にムキになって、大きな笑いが起こったものだ。そんな吉田が、鬼になって村を焼いた。

吉田に彼女が出来たことをいじったのが原因だったのかもしれない。「吉田のことを好きになるなんて、モノ好きな人がいるんだな」「付き合うってことは吉田とキスしたりするってことだろ?ヤバw」「ドッキリかもしれないから気をつけた方がいいぞ」、そんなことを言いながらも最後にはみんなで「おめでとう」も言ったし、吉田もいつものように喜んでくれていると思ったのだが、そうじゃなかったのだろうか。

巨大な鬼になった吉田は、金棒を振り回して家屋を壊し、田畑に火を放った。騒ぎを受けて街から警察官が大勢駆け付けて、吉田は全身に銃弾を浴びて死んだ。村は半壊したが、死者が1人も出なかったのは不幸中の幸いだったと思う。結局吉田が何故鬼になったのか、真相は分からない。村の広場には吉田を鎮めるための慰霊碑が建てられた。僕は時々、吉田が好きだったチョコチップメロンパンをお供えしている。

よろしければサポートいただけると、とてもとても励みになります。よろしくお願いします。