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一目惚れされてぇな

自分の人生で、誰かに一目惚れをされたことはあっただろうかと考える。おそらくそんなことはなかったろうなと思うし、これからもないのだろうなと思う。見た目や立ち居振る舞いだけで誰かに好きになってもらえるならば、どんなに素敵な人生だったろう。と、ないものねだりをしたくなる。

表現活動における一目惚れは、有り難いことにおそらく何度かあったろうなと思う。舞台を見てくれて素敵な役者さんだなと思ってもらえること、お笑いライブでネタを見てくれて面白いなと笑って好きになってくれること、たまたま流れてきたブログを読んでこの人の書くものはいいなと思ってフォローしてくれること、それはとんでもなく嬉しいことだ。でもそれはもしかしたら、僕そのものが愛されないゆえ必死にもがき足掻いて獲得した、愛されるための代替手段なのかもしれない。こうやってせっかくもらった愛さえも歪んで受け取ってしまうのも愛されなかったせいなのか、こんなだから愛されないのか、鶏が先か卵が先か。どっちなのだろう。

一目惚れで好きになってもらえたらいいのにな。そうじゃなくても、ありのままの自分で愛されたらいいのにな。それも難しいなら愛されるための努力を重ねて好きになってもらおう。それもダメですか、それならせめて僕の作ったものを愛してくださいませんか。僕にとって愛とは妥協を重ねることだった。母親に褒めてもらいたくて絵を見せたあの日から、僕はずっと愛されたがっている。

愛されてぇなあ!世界の中心で愛を叫ぶのは、44歳でハゲてて金もなくて卑屈なエロいおじさんだ。愛される要素が見当たらねぇな!そんなことないよと慰めてくれる人に、じゃあ俺と付き合ってくれよと言ったとしたら、いや、それは……と口ごもるのだろうな。にっこり微笑むだけで愛されるような人間だったらどんなにか楽だったろう。どうやら僕は今とても愛されたがっている。

「……随分とうなされていたけれど、何か悪い夢でも見ていたの?」目を覚ました僕に妻は心配そうに声をかけた。「誰にも愛されない夢を見たんだ」僕は恐ろしい悪夢を告白する。「まあ、でも大丈夫。私はあなたに初めて会ったあの日から、ずっとあなたを愛しているわ」そう言って妻は優しく僕のことを抱き締めてくれた。あぁ、ずっと探していた青い鳥はこんなにもすぐそばにいたんだ……せめて創作の中だけでも幸福な愛を得ようとする滑稽な自分を演じて文章を結ぼうとするサービス精神だけは、どうやらまだ残っているようですね。

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