猫こわい

オイラは小さい頃から怖いもの無しで育ってきたが、どうにも猫というやつだけは怖くって仕方がない。こうやってその名前を口にしただけで身震いがして体じゅうにぞぞぞっと鳥肌が立つくらいだ。

思えばオイラが猫を怖がるのは、小さい時分に近所に住み着いていた野良猫のくろの野郎が原因だ。あれはオイラがまだ五歳かそこらぐらいの頃、狭い公園の砂場でひとりで遊んでいた時のことだ。公園に住み着いていたくろの野郎が、こっちへ向かってトコトコと歩いてきたんだ。オイラは構って欲しいのかと思って近づいてって撫でてやろうとしたんだが、どころがどっこい、あの野郎オイラが撫でてやろうと思って差し出した手を思いっきり引っ掻きやがったんだ。野良猫の爪ってやつはああ見えて雑菌にまみれてやがる。オイラの手は二倍になって腫れ上がって、高熱が出て三日三晩寝込む羽目になっちまったんだ。あの野郎!それ以来オイラはすっかり猫が怖くなっちまったんだ。

だいたいアイツらは自分が可愛いということを分かったようなツラをしてやがるのが気に食わない。小首を傾げて、可愛いですけど何か?みたいな顔で誰彼構わず媚びを売って歩いていやがる。犬たちが自分がいくら可愛くても所詮犬っころだとわきまえた態度をして小屋にこもっているのとは大違いだ。猫どもがひなたでたむろしてゴロゴロと日を浴びて転がっているのを見ると虫唾が走る。寝ている姿勢でさえ、自分たちが可愛く見えるように計算していやがるように見えてしまうし、実際やつらは計算した上でめいめい好きな格好をして丸まっていやがるんだ。いまいましいったらありゃしない。平和の象徴みたいななりで丸まっていやがる癖に、気まぐれで飛びかかって爪を立ててくるのがやつらのやり方なんだ。猫を見るとオイラはムカムカと胸に気持ち悪いものが込み上げてくるし、少しでも目が合おうものならたちまち血の気が引いて青い顔になってしまう。とにかく猫だけは怖くて怖くて仕方がないんだ。

……なんてことを書いておいたら、僕に恨みを持つ人間が猫を投げて寄越してくれませんかね?そしたらこわいーこわいーって言いながら全力で猫と戯れるのに。

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