見出し画像

探偵神宮寺マキヒコ、セーター殺人事件

解剖の結果、山口氏の死因は何らかのショックによる心臓麻痺だと分かった。これは事件ではなく事故だ。しかし神宮寺には少し引っかかる点があった。それは現場に落ちていた女物のセーターであった。

大胆に背中が露出し胸元が開いたデザインの、ネットでは『童貞を殺すセーター』などと呼ばれているセーターだった。山口氏は34歳であったが、失礼ながらおよそ女性にはモテそうもない風貌をしており、親しい知人の証言によると氏は童貞であったらしい。事故ではなく、童貞を殺すセーターによって殺されたのだとしたら……?神宮寺は懇意にしていた目白警部に依頼し、童貞を殺すセーターを鑑識で調べてもらうことにした。

争点は、童貞を殺すセーターが本当に童貞を殺すことが出来るか否か、その殺傷力であった。これは実際に女性に身につけてもらって検証する必要がある。様々な女性モデルに実際に着用してもらって綿密なデータ収集が行われ、テストには神宮寺もモニターとして協力した。神宮寺は無類の巨乳好きであった。童貞を殺すセーターを身に付けた女性を目の当たりにすると、神宮寺をはじめモニターたちの男性には大きな心拍数の上昇が見られたが、それが童貞を死に至らしめる程であるというデータは得られなかった。どうやら神宮寺の懸念はただの杞憂だったようだ。

鑑識の結果を受けて、山口氏の死は事故として処理されることとなった。しかし疑念は残る。現場に残されていたセーターは何だったのか?誰が置いて行ったのか?誰が着ていたのか?どうしてセーターだけが残されていたのか?謎は謎のままだ。いかに名探偵神宮寺マキヒコとは言え、全ての謎を解き明かすことは出来ない。神のみぞ知る、ということもある。だが当の神宮寺は事件に謎が残ったことなど全く気にしていない様子だった。何故なら検証モニターの時に知り合ったGカップのグラビアアイドルと、縁があって付き合い始めたからだった。

童貞を殺すセーターが本当に人を殺せる殺傷力があるのか、それは分からない。だが、1人の男の心を撃ち抜くのには充分な殺傷力を持っていたということだけは証明された。どんな難事件も迷宮入りさせずに解決する推理に定評のある神宮寺マキヒコだが、今は恋の迷宮に迷い込んで浮かれているようだ。

よろしければサポートいただけると、とてもとても励みになります。よろしくお願いします。