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「美には傷以外の起源はない」

美には傷以外の起源はない。
……どんな人間もそれを自分のうちに保存している。

――ジャン・ジュネ
(フランスの小説家・詩人・エッセイスト・劇作家・政治活動家)

みなさんは、これまでの人生でどんな傷を負ってきましたか。
思い出したくもない傷、負ったばかりの生々しい傷、誇らしさと共に刻まれた傷……
全体的に見ると、あまりいい思い出ではない、という人の方が多いのでしょうか。

過去の傷、と言われて思い出すのは、沙村広明の名作『無限の住人』です。
不死の剣士である万次が、同じく不死の剣士、閑馬永空に「血仙殺」という毒を使われ、過去に負った傷が次々と開いていく。不死であるのをいいことに、とにかく万次が血を流しまくるこの漫画の中で、過去の傷と向き合うこのシーンは、序盤のクライマックスだと個人的には思っています!

という、趣味の話はこのくらいにして……。

僕自身、自分の思春期の傷を思い返してみると、とにかくいびつで、それなのに妙に明々と輝いていて、恥ずかしさに目を伏せたくなるものばかリです。
今年の二月、中学校の同窓会がありました。実に、二十七年ぶりの再会。そこで、すっかり忘れていた思春期の傷を目の当たりにすることになったわけですが、なかなかどうして、思っていたよりもずっと落ち着いた気持ちで受け止めることができました。
自分自身の起源が、今の僕がたどり着いたあらゆる価値観の根っこが、思春期の自分の中に既に存在していたのだということが分かったからです。

「美」という言葉は、この場合、誤解を与えてしまうかもしれないですね。
ジャン・ジュネの数奇な人生を考えると、僕たちの考える美は、そこにきっとかすりもしない。
血と精液に浸された錆びだらけ短剣の美しさ――なんて言うと、少しはイメージが伝わるでしょうか。
(ジャン・ジュネの人生は、きっとみなさんを虜にします。せめてウィキペディアの説明だけでも読んでみてほしい……な……)

自分だけの価値観にたどり着くには、その価値観を武器になるまで磨き上げるには、思春期に負う傷が欠かせない。
なぜならその傷は、「自分が何者であるか」についての闘争の中で負う傷だからです。
傷つかない生き方というのも、確かにあります。安全に、無難に、挑戦を避け、大人の導きに耳を傾け、常識に従い、広い道を行く。
ですが、その道の先には何があるのでしょう。
傷つくことを恐れないでください。
その傷を大切に感じる時が、いつか必ずやってきますよ。

Photo by Hajran Pambudi on Unsplash

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