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「「やさしい鮫」と「こわい鮫」」

「やさしい鮫」と「こわい鮫」とに区別して
子の言うやさしい鮫とはイルカ

――松村正直
(日本の歌人)

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かわいらしい短歌ですよね。
イルカを知らない子どもが、イルカを指して「やさしい鮫」と言う。
「なーんだ、イルカかよ」と言ってしまうことは簡単です。
ですが、この子の世界には「やさしい鮫」と「こわい鮫」とが存在している。
「こわい鮫」しかいない僕たちの世界と比べて、この子の世界は少しだけ「やさしい」気がします。

そして、僕たちの世界の「鮫」は、いつでも「こわい鮫」です。
ところが、この子の世界には、「やさし」くも「こわ」くもない鮫が、きっといる。
そのことを思うと、僕は鮫に対して、少し申し訳ない気持ちになるのです。

中学生の頃、クラスメイトに「こわいよ」と言われたことが、何度もあります。
僕はただ、一生懸命だっただけなのに。

この子の世界でなら、僕は「こわい人」ではなく、何の形容詞もつかない「人」でいられたかもしれない。
その痛みを知っていたはずなのに、僕の中の鮫は、いつの間にか「こわい鮫」になっていました。
ごめんよ、鮫。

ところで、もう一歩踏み込んで、この短歌に手を加えてみると、こんな空想が広がります。

「やさしい人」と「こわい人」とに区別して
君の言うやさしい人とは___

もしかしたら、「やさしい人」は人ではないのかもしれない……
みなさんは、___にどんな言葉を入れますか?

Photo by Gerald Schömbs on Unsplash

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