見出し画像

#5 なぜ日本ではなくアメリカで飲食店開業?➁

前回の記事で、アメリカで飲食店を開業することの魅力について以下のことを挙げた。

① 人口当たりの飲食店数が少ないこと、即ち過度な競争マーケットではないこと

② 日本と比べるとアメリカの飲食店のレベルが信じられないくらい低いこと

③ ランチの平均単価が15㌦程度と日本の倍くらいの客単価が見込めること

④ なんちゃって日本食の第一次ブームに続き、本当に美味しい第二次日本食ブームが起こっていること

⑤ 従業員は給料の他にチップがもらえるため、最低時給(2023年のカリフォルニア州の最低時給は15.5㌦)でもそれなりの収入が期待でき、労使ともにウィンウィンであること

その他にも魅力的な理由はたくさんある。

アメリカ経済と言えば、テクノロジーや金融、石油などを思い浮かべるが、

アメリカは実は世界でも有数の大農業国である。

そのため、肉類、野菜、穀物、乳製品など、多くの食材が日本よりも安く手に入る。

しかも、魚以外は日本よりも種類・選択肢が豊富で、例えばオーガニック材料はどのスーパーでも大体手に入るし、

こだわりの農家が出店するファーマーズ・マーケットも各地で頻繁に開催されている。

オーガニックに関して言うと、アメリカでは農務省が管理するオーガニック認証システムが確立されており、

野菜に留まらず、卵、乳製品、肉類、穀物など、ほとんどの食材でオーガニックの選択肢があるのは素晴らしい。

しかも、オーガニック食材が普及しているから、日本のようにびっくりするくらい高いということはない。

多くの食材が日本より安価に手に入れることができ、オーガニックの選択肢もある一方で、外食の客単価は日本の倍くらいが見込める。

飲食店にとってこんなにおいしい話はないのではなかろうか?

もちろんその分人件費が高く、Food(食材費)とLabor(人件費)を合わせた所謂FLコストは売上の60%が目安という点は日本と変わらない。

しかし何と言っても、アメリカで飲食店を開業する一番の魅力は消費意欲旺盛なアッパー・ミドルクラス層が多いことだと思う。

日本がバブル崩壊後の失われた20年を経験している間、アメリカはどんどん豊かになった。

90年代までは、日本の1人当たりGDPはアメリカを上回っていたが、直近ではアメリカの1人当たりGDPは日本の倍近くになっている。

東京23区の世帯年収の中央値(昇順もしくは降順で並べた場合の真ん中の値)は約630万円だが、

僕が住んでいるカリフォルニア州オレンジ郡は94,400㌦と1㌦=120円で計算しても1,100万円を超える。

また、オレンジ郡の世帯年収の平均値(超富裕層により年収の平均値は中央値と比べて吊り上がる傾向にある)は144,000㌦(約1,700万円)だが、

これはお金持ちの街として有名な東京都港区の1,180万円の約1.5倍である。

港区の人口が約25万人しかいないのに対して、オレンジ郡の人口が約320万人であることを考えると、

物価の違いを考慮しても、オレンジ郡は港区と同じような富裕層が12倍住んでいるマーケットという見方ができるかもしれない。

(※注)日本とアメリカでは行政区画が異なり、比較が難しいが、個人的には日本の市町村がアメリカの郡のイメージ

しかも、アメリカにはオレンジ郡より裕福な郡が20州にわたり65郡もあることを考えると、

アメリカ各地に富裕層やアッパー・ミドルクラス層が広がっているのではないかと想像できる。

飲食店で食事をする、所謂外食は、家で作って食べる内食や、総菜などで済ます中食より高くつくという意味ではぜいたく品である。

なので、頻繁に外食に行く余裕があるアッパー・ミドルクラス層が厚いということは、飲食店側からすると魅力的なことだ。

しかも、アメリカ人は金持ちでなくても外食好きである。

米国労働統計局の調査によると、ロサンゼルスでは年間の食費に占める外食費の割合が50.1%と過半を占めている。

一方、日本では外食の頻度が一番高い東京ですら年間の食費に占める外食費の割合は21.6%しかないという結果が出ている(総務省統計局の調査)。

日本では、外食は依然としてぜいたく品との考えが残り、外食は節約のため真っ先に削られる支出項目であるためかもしれない。

一方、アメリカは、ファストフード店も充実しているので、お金持ちでなくても外食文化が根付いているのかもしれない。

財布の紐が固い消費者を相手にいいものをとにかく安くという熾烈な競争を続ける日本の飲食業界。

過当競争により利益もほとんど出ないため、従業員にも還元してあげられない。

安い給料で過酷な長時間労働というレッテルが貼られるそんな業界で働きたい若者は減る一方。

日本の外食マーケットは1997年の29兆円をピークに漸減し、一時はインバウンド需要とアクティブシニア需要を基に復活の兆しを見せたものの、

コロナ禍により2020年には18兆円まで落ち込んだ。

素晴らしい食文化を持つ日本。

いい材料を使って手間暇かけて最高の料理を提供したいという思いはあっても、

それに対して適正な対価を支払える人がどんどん少なくなっている。

少し前までならば期待できた会社の接待・宴会需要なども若者の価値観の変化やコロナの影響により厳しくなっている。

このまま日本の食文化が衰退するのを傍観していていいのだろうか?

日本の食文化をアメリカなど海外で広めるのも一つの手かもしれない。

いい食材を適切な価格で仕入れて、納得がいくクオリティでお客さんに提供し、適正な価格をいただく。

当たり前のことだが、今の日本ではなかなか出来ないことだ。

しかも気前の良いチップ文化があるから、従業員にも賃金に加えて追加で報酬が支払える。

お店も、従業員も、お客さんもみんな嬉しい、ウィン、ウィン、ウィンな状況が実現できる国、アメリカ。

アメリカンドリームは現在も健在だ。

>第一話はこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?