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#4 なぜ日本ではなくアメリカで飲食店開業?①

僕は出張や旅行でヨーロッパ、北米、アジア、南米、オーストラリアなど30カ国以上訪れたことがあるが、

食に関しては日本が世界一美味しいと断言できる。

こんなに食のバラエティが豊富な国は他になく、季節の食やその地域ならではの食もある。

しかも安くておもてなし文化に根付いたカスタマーサービスも素晴らしい。

日本に住んでいるとそれが当たり前だと思っている人が多いと思うが、海外で暮らしていると、

日本の飲食店はあらゆる面で感動レベルとすら思えて来る。

ミシュランの星付レストラン数で日本の都市が上位を占めていることや

コロナ前のインバウンドブームで世界各国から食目当てに日本に押し寄せて来ていた事実を踏まえても、

日本の食が世界一であることは間違いないだろう。

しかしそんなレベルの高い日本の飲食店でも、開業後1年以内に30%、3年以内に60%、10年以内に90%が廃業すると言われている。

一般的に飲食店は参入障壁が低い業界と言われているが、

日本の飲食業界は世界でも最も参入障壁が低いマーケットであり、

過当競争が常態化したレッドオーシャン

であるからだろう。

人口千人当たりの飲食店数は東京23区の6.22店に対して、ロサンゼルス市は2.37店、ニューヨーク市は1.39店となっている。

アメリカの都市だけでなく、シンガポールやソウル、香港、北京などの主要都市と比べても東京23区の飲食店数はパリと並んで異常に多いのが分かる。

人口1000人当たりレストラン数

なぜ、日本の飲食店数はこんなに多いのだろうか?

まず、飲食店開業にあたっての規制が緩いことだろう。

住宅街でも開業できるし、他の国であれば無理な狭小スペースでも開業できる。

開業前と開業後の保健所のチェックも比較的ゆるい。

また、次から次へとお店が潰れるため、居抜き物件が多く、

開業コストが安く抑えられるケースが多い。

自己資金がほとんどない人でも、公庫から無担保・無保証人で資金を調達できる制度があるし、

信用チェックなど大家によるテナント審査も甘い。

だから、次から次へと参入して来て、レッドオーシャンと化しているのではないだろうか。

はっきり言えるのは、そんな日本の飲食業界で勝負するのはリスクが高いということだ。

そもそもの飲食店数が多過ぎるため、いくら美味しい料理を提供したとしても、

お客の数には限りがあるため、少し美味しいくらいでは繁盛店になるのは難しいのかもしれない。

では、競合が比較的少ないアメリカの飲食店事情はどうだろうか。

僕は初めてアメリカに来た時に、飲食店のレベルの余りの低さに驚いた。

なぜこの程度のレベルの飲食店がやっていけるのだろうかというくらい。

いつも行列の人気ブランチ店では家庭レベルのパンケーキに何の拘りもないフライドポテトや卵料理などのサイドが山盛りになって出て来るだけだし、

高級レストランに行っても、いいお肉は使っているものの、ただ焼いただけのステーキが付け合わせといっしょにドーンと盛られて出て来るのが定番だ。

正統派イタリアンを名乗るお店に行っても、サイゼリヤの方がよっぽど美味しいし、

本家のデニーズなんて日本のデニーズとは比較にならないほどクオリティが低く、これにお金を払うのかと思うくらいのレベルだ。

唯一どこに行ってもそんなに外れがないのはハンバーガーとタコスやブリトーくらいだが、所詮B級グルメの域を出ない。

なのに、びっくりするくらい高い。

テーブルに案内し注文を取りに来てフードを運んでくれる所謂フルサービス(日本では当たり前のサービス)のお店に行くと、

ランチでも15ドルを下回るお店はほとんどない。

それに税金とチップ(平均20%)を上乗せして支払うので、仕上がりは20ドルになるのが当たり前だ。

チップ文化の国でレストランのサーバーは最低賃金で働くのが基本のため仕方ないと思うのだが、

テーブルに案内し、メニューを渡し、注文を取りに来て、食事を運び、

途中で「How’s everything?(食事やサービスなど全て(追加のナプキンとか)大丈夫?」と様子を聞きに来て、

最後に伝票を持って来るという日本でも普通に受けるだろうサービスに対して、食事代の20%ものチップを支払うことに慣れるまでには数年掛かった。

日本で良いレストランを決める要素は、
料理の味50%、
料理のボリューム20%(ただ多ければいいのではなくバランス)、
雰囲気20%、
サービス10%
くらいのイメージだと思うが、

アメリカでは
料理の味20%、
料理のボリューム30%、
雰囲気20%、
サービス30%
くらいの比率だと思う。

料理に関しては味よりもボリューム感がないと話にならないし、

アメリカ人は店員から特別に扱われることが大好きなので、店員との会話を含むサービスはかなり重要なポイントだ。

共働きが多いアメリカ人の家庭では夕食も冷凍ピザで済ませることが多く、

誰かを家に招待する時は必ずと言っていいほど裏庭でバーベキューといった感じで、手の込んだ料理をする家庭は多くない。

だから、あのレベルの外食でも座っているだけで

今日のお勧めを説明してくれたり、追加のナプキンを持ってきてくれたり、気の利いたことを言ってくれれば喜んで大金を払うのだと思う。

あと考えられるのは、アメリカ経済と言うと、効率性、大量生産、資本主義という言葉を思い浮かべるが、

飲食業界も大手チェーン店が日本以上に幅を利かせており、どこのショッピングモールに行っても大体似たようなテナント構成となっている。

生まれた時から、マクドナルドやドミノピザなど大手チェーン店の、ハンバーガー、ピザ、ホットドッグ、チキンウイングなど

ザ・アメリカンな食事で育ったアメリカ人は本当に美味しい食べ物を知らないのではないかと思う。

考えてみれば16世紀後半からヨーロッパ各国の植民地となり、

17世紀から18世紀にかけてヨーロッパからの移民が押し寄せ、

独立戦争を経て1776年に独立宣言をアメリカ合衆国が建国された時には、既に産業革命が始まっていた。

だから飲食業界も最初から大量生産・効率性重視だったのではないかと勝手に推測する。

でも、そんなアメリカで、雰囲気やサービスが良くて、料理のボリュームもそれなりにあって、本当に美味しい料理を提供したらどうなるのだろうか?

今まさにニューヨークやサンフランシスコなどの大都市圏を中心にそのようなレストランが人気を博している。

日本食では寿司とラーメンは今やそれなりの都市ではどこでも見かけるようになり、レベルが高いところも少なくない。

季節のおまかせ料理のお店、うどんや蕎麦、焼き鳥、ジャパニーズイタリアン、そして鯛焼きなどのお店も登場してきている。

アメリカ人も日本食の美味しさに気付き始めているのは間違いない。

アメリカ人用に開発したなんちゃって日本食ではなく、本物の日本食の美味しさに。

70年代から90年代に巻き起こった第一次日本食ブームでは、アメリカ人にも取っつきやすい肉を素材として炎を上げて焼き上げるパフォーマンス重視の鉄板焼きから始まり、

寿司も生魚を使わないのは当然のこと、海苔も黒い食べ物を見たことないアメリカ人用に外側でなく内側に巻くアメリカンロールが人気を博したそうだが、

今、アメリカの都市部で人気が出てきている日本食は日本で食べれるようなオーセンティックな日本食だ。

美味しくて、カロリーも少なく、栄養のバランスが取れたヘルシーな日本食の素晴らしさに多くのアメリカ人が気付き始めている。

アメリカでもやっと飲食店で一番重要なことであるはずの料理の美味しさが評価され始めてきているようだ。

実は美味しい食べ物が少ない未開の地アメリカ。

日本の倍くらいの客単価が期待できるアメリカ。

人口当たりの飲食店数が日本の半分以下と競合の少ないアメリカ。

世界有数の大農業国で豊富な食材が安価に手に入るアメリカ。

チップが時給以上にもらえるケースが多いため、最低時給でもそれなりの手取り額となり、労使共にウィンウィンのアメリカ。

こんなブルーオーシャンなマーケットはないのではないだろうか?

今このブルーオーシャンの大きなビジネスチャンスに目を付け、アメリカの第二次日本食ブームで日本食レストランを展開しているのは

多くは日本人ではなく、韓国系、ベトナム系、中国系の人達だ。

外から来た人達には日本食のポテンシャルの高さが分かるのだろうし、行動力もあるのだと思う。

バブル崩壊以降、アメリカをはじめとする海外の大学への日本人留学生の数が年々減っていることに象徴されているように、

日本人は内向き志向になり海外で挑戦をしなくなったと言われている。

だから飲食業で海外に大きなチャンスがあることすら知らず、日本のレッドオーシャンで喘いでいるのかもしれない。

そんなレッドオーシャンを抜け出し、異国のブルーオーシャンで挑戦しようと思っている人たちに、

また、日本の素晴らしい食文化・おもてなし文化をアメリカに広めるために、自分自身の経験を元に、アメリカで飲食店を開業するノウハウを発信していきたい。




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