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#12 アメリカで飲食店開業:内装工事編

アメリカでお気に入りの居抜き物件を見つけて、リース契約もなんとか締結できそうだ。

どれだけお気に入りの居抜き物件を見つけたとしても、やはり自分らしさを出したいだろうし、

使い勝手を考えると、ある程度の内装工事がしたくなるものだと思う。

実際、僕の場合もそうだった。

以前に入っていたテナントはメキシコレストランで、僕らがやりたいのはベーカリー・カフェだから、

内装イメージも違うし、キッチンの使い勝手も異なる。

物件を見つけてから、リース契約の交渉を開始してリース契約を締結するまでの約2ヶ月の間、

それまでにピンタレストなどでストックしておいた情報を元に、

レイアウトはどうするか、どのような内装デザインにするか、オーブンや発酵機等の厨房設備をどこに設置するか

などの検討を進めて、出来上がった内装イメージがこれ。

今見返すと、

理想を求めて盛り込みすぎたなと思う。


色んな人から、飲食店は軌道に乗るまでに時間が掛かるし、

軌道に乗る前に資金が尽きてしまうことも珍しくないから、

出来るだけ居抜きのまま使用し、

リフォームは最小限にしろ、

現状の区画などレイアウトは動かすなとアドバイスをもらっていたが、

やはり理想の空間を造りたいという欲がどうしても出て来てしまう。

何社かの設計・工事会社と面談し、前職で少し付き合いがあったS社に、

設計と工事の両方をお願いすることを念頭に、まずは設計を依頼した。

最初に物件の状況を確認するためにサイト・サーベイを行う。

床・壁・天井から、電気・ガス・水道・下水などのインフラ、残地された厨房設備・機器、エアコン室外機、グリーストラップなどの調査を行った。

その調査とこちらの内装イメージを元に、設計作業を進める。

結論から申し上げると、完全に設計会社の選定を誤ったとしか言いようがない。


最初にちょっとおかしいなと思い始めたのが、キッチンレイアウトの検討を進めている時だった。

必要な厨房設備をリストアップし、キッチンコンサルタントに提示して、設置プランを検討してもらったところ、

全ての設備がキッチン内に収まりきらないとの回答。

一応、自分でも寸法を測って、ある程度の目安を付けていたため、そんなはずはないだろうと思って、図面と睨めっこしてみる。

すると、物件の入り口付近のスペースが無駄に空いているし、厨房設備も明らかに非効率な配置となっているように見えたので、

再度レイアウトの検討を依頼した。

すると、「いや、それでも全ての機器を収めるのは無理です」との回答。

こちらから、「じゃあ、この機器とあの機器の場所を入れ替えてみたらどう?」とか、

「この機器は別のメーカーでもっと小さいサイズがあるから、そっちに変更しましょう」とか、

「奥行きがある設備は角に置いたらいいんじゃないの?」など

何度も指摘して、一部の設備はあきらめたこともあるが、最終的には全ての設備が上手くスペースに収まった。

毎回、すぐに「無理です」、「難しい」と言ってくるなど、本当にプロなんだろうかというような有様だった。

キッチンレイアウトの他にも、とにかく仕事が遅く、いつも何度もプッシュしまくって、やっと出て来るという感じだった。

当時はまだビザも取れていなかったため、日本に滞在しながら、リモートでスカイプやメールで現地の設計会社とやり取りをしていたのだが、

時差の関係で、こちらは毎日朝3時に起きて、相手の時間に合わせて仕事していたのに、

そんなこんなで、当初2ヶ月と想定していた設計作業に3ヶ月も掛かることとなってしまった。

保健所と市の建築課に内装工事の許認可申請をした時も、

提出した図面について、当局からいくつか指摘事項があり、すぐに修正できるだろうと思ったが、

結局図面の再提出に1ヶ月近く掛かった上に、詰めが甘く再々提出を命じられるなど無駄に時間を浪費し、

2ヶ月で見積もっていた許認可取得に4ヶ月も要してしまう羽目になってしまった。

極めつけは、最初に内装工事の予算は30万㌦なので、それを意識して提案して欲しいと伝えた上で議事録にも残し、

こちらとしてもレイアウトは極力動かさないなど、極力工事費を抑えるようにしてきたにも関わらず、

設計作業完了後にS社から出てきた

工事見積額は69万㌦(当時のレートで76百万円)。

その後、許認可取得後に再度確定見積を取ると、追い打ちをかけるように6万㌦プラスになると連絡が来た。

この会社には工事を依頼できないと確信し、結局別のK社にお願いすることになったのだが、

そちらからの見積金額は

30万㌦近く低い47万㌦だった。


しかも、K社から指摘されたのは、S社が老朽化しているので取り替えた方がいいと言って、

仕方なく盛り込んでいた配管の取替工事は必要がなかった。

無駄な配管取替工事

ディッシュウォッシャーについても、低温タイプを選定すれば、フードを設置する必要がなかったのに、

わざわざ高温タイプを選んで、フード設置工事を盛り込むなど

ぼったくりと言わざるを得ないようなことがいくつも出てきた。

一度役所に提出し許認可を得た工事内容を変更するには、再度図面を提出して許可を取り直さなければならないが、

また数ヶ月掛かるかもしれないその手続きを避けるため、

結局渋々それらの工事をやることとなったのだが、S社のせいで10万㌦以上を無駄に掛けることとなってしまった。

加えて、エアコンの室外機(商業用なので高額)も老朽化ですぐに壊れるので交換した方がいいと言われていたが、

4年経った今も全く問題なく動いている。

代わりに内装工事をお願いしたK社は素晴らしかった。

当初4ヶ月半と見積もられていた内装工事だったが、途中コロナのパンデミックがあったにも関わらず、

きっちり4ヶ月半で仕上げてく、仕上がりも期待以上のもので、

工事完了後の役所による工事完了検査も問題なく通過した。

ビフォー
アフター

設計段階からK社にお願いしていたら、不必要な工事をすることもなく、

工事費削減提案なども含め当初の予算内に収まっていたかもしれないし、

設計や許認可手続きで数ヶ月はスケジュールを早めることが出来ていただろうと思うと、

悔やんでも悔やみきれない。


本当に高い勉強代だったが、もし次に居抜き物件を改装する場合は、以下を気を付けたい。

1)設計・工事会社は同業者の知り合いなどによく相談して、実績なども確認の上、信頼できるところを選定する。

特に飲食店の工事に精通しており、且つその物件があるエリアの案件を手掛けたことがある設計・工事会社がベスト。

なぜならば、エリアによって市の建築課や保健所がよく指摘するポイントを理解しており、許認可取得で無駄な提出し直しが避けられるからだ。

2)アメリカは日本の基準からすると、何でもびっくりするくらい高く、内装工事も例外ではないため、

理想の空間も大事だが、ベストは居抜き物件は現状のまま使用し、何も変更しないこと。

どうしてもいじりたい場合でも、区画などのレイアウトは変更せず、

出来れば表面部分(壁、天井)の仕上げの変更のみの工事とする。

コンセプトや使い勝手から考えてどうしても譲れないところを予め決めておき、他は何があってもいじらない。

3)配管の取替工事(床を壊すので高くつく)や、フードの設置工事(屋根に穴を開けるので高くつく)など、

建物に穴を開ける工事は信じられないくらい高いので、もしそういう工事が避けられないと判明した場合は、

物件を見送るなどの判断も必要。

尚、レイアウトを動かさず、表面部分の仕上げ+どうしても譲れない部分の工事だけで、

賃貸面積1sf(square feet)当たり150㌦程度は掛かると思っておいた方がいい。

区画を変更したり、建物に穴を開ける工事は1万㌦単位で掛かることを覚悟した方がいい。

但し、僕は今回の内装工事で高い代償を払ったわけだが、理想の空間を手に入れることが出来たと思っている。

お客さんからもよく、素敵な空間だとお褒め頂くことも多く、自分自身も大満足である。

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