政府よりも企業

本を読んでいると、老人に出会った。

ー「紙の本とは珍しい。同士だな。」

彼も紙の本を持っていた。

「あなたは?」

ー「ここで生まれた者だ。久しぶりに戻ったら、やはり更に荒れ果てていたよ。あそこの線路は路面電車の線路でな。夏目漱石の小説で出てきた電車が、復刻されてはしっていたよ。ここが「しのくに」なんて言われる前のことだが。」

「ああ、知っています。政府を壊した日ですね。」

ここに来る前に、目の中のマイクロチップへ、記録映像をダウンロードして見た。

国会議事堂を何万もの人が埋め尽くし、石を投げていた。

突然、何十ものドローンがその上を駆け抜けた。

銃声の音がやむと、爆発音が響いた。

その後には歓喜しか、なかった。

「何故あんなことが起きたのですか?」

ー「『善悪』は知っているだろう。」

「もしかして、ZenAckですか?」

ー「そうだ。私たちは皮肉って『善悪』と読んでいたよ。彼らは、『善悪』を選んだんだ。」

ZenAckは、本を売ることから始め、最終的には、生活の全てになった。

定額サービスに、食事の配達が加わってからは、これで生活ができると会社を辞めて好きなことをする人が急増したそうだ。会社が大量に倒れたのは言うまでもない。

ー「日本政府は、危険性を感じて、激しい規制をかけた。しかし、『青い鳥』を通した、フェイクニュースをまじえるキャンペーンによって、多数の反対グループが作られた。あの日、議事堂で決起集会が行われたが、他国の人はああなるとは思ってなかっただろうな。。」

「今、ここに住んでいた人は、どこへ行ったんですか?」

ー「地下だよ。」

「えっ」

ー「もともと『善悪』は、地下にロボットを使った全自動の工場を作ろうとしていた。しかし、政府に妨害された。結局、従業員を雇って、働かせることにした。その給料が高かったので、どんどん地下に潜っていった。」

彼は、電話ボックスを思わせるエレベーターを指した。

ー「いつの間にやら、地下の者たちは、工場の周りを掘り進めて街を作り始めた。『善悪』のサービスで生きるのに困らないから、彼らは地下でずっと過ごし続け、ついには出てこなくなった。聞く話だと、いつもお祭りをやってるらしい。」

「そうですか。。工場は今も動いているんですか?」

ー「動いている。海外で『善悪』を使ったら、発送元がここの住所でね。全く、あきれるよ。自由に生きれるようにしてろうとしたのに。。」

どこからともなく、ドローンが2機、やってきた。

ー「時間か。じゃあな。気をつけて。」

彼はどこか寂しそうに去っていった。

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