車のへこみ

朝起きてみると、車にへこみがあった。
契約会社に連絡すると、無料で直してくれるという。
まあ、そういう契約で使っているから、当たり前なのだが。

知っている通り、自動車の自動運転技術競争は激しさを増している。
日本企業も努力していたが、先にA国とC国が完全自動運転車を発売した。
それらは日本にも輸入されたが、数年前に政府が決めた「AI運転自責法」のため、なかなか普及していない。内容は単純で、自動運転時の事故は運転者の責任というもの。
お陰で、完全自動運転車もセミオート加工され、手動運転への切り替えが可能になっている。
実際は、みんなオートのみで運転しているらしい。

さて、自分も完全自動運転車が欲しいと思っていた時、友人からあの車を勧められた。日本で開発した車で、紹介当時は発売されていなかった。

契約内容はこんな感じだ。
公開価格よりも大幅に安い値段で買え、傷やへこみも連絡すれば、自動で直してくれる。
更に自動運転で事故が起きた時も、会社が責任をおってくれる。
ただし、月の10日以上、夜間にエンジンをかけたままで放置しておかなければならない。
できない場合は連絡を入れて、翌月に時間を多めにとる。

良い条件だったので、もちろん購入した。
自分は運転が下手なので基本的に、自動運転モードを用いた。
特に危なっかしい運転もしないので、どんどん使うことにした。
契約も守って、夜にエンジンを入れた。
特に変わったこともなかった。

しかしながら、例外が起きた。
前日、確認した時には無かったへこみだから、夜の間に何かあったのだろう。
そして、これが1回で終わるはずはなかった。
へこみが出来ても、直してくれるのだから。

成分計測結果

(分析は友人から頼まれたものだ。)
対象:車のへこみ
方法:へこみ部分を剥がし、分析施設へ移送。分析装置ver.6を使用。

結果:塗料やアルミ片のほかに、人間の皮膚片を発見。遺伝子検査を行い、
データを友人へ手渡す。

追跡・情報分析結果

友人から、夜間の自家用車を監視する仕事を依頼された。
24:30 友人宅を出発。
25:01 調査依頼のあった夜間事故多発交差点のうち、5つを走行。スピードは95km/h。制限速度60km/h。
25:37 カーブの多い山道を走行。途中で鹿が出てくるも、寸前で回避。あと数㎝ずれていれば衝突していたはず。速度80km/h。
26:28 一般道を125km/hで走行。車線変更も行う。
27:00 駐車場に停車。
27:05 無人車が駐車場に5台停車。ケーブルを出し、接続し合う。
28:00 友人宅に戻ったのを確認。
28:30 私の車に無人車が衝突。走行不能になったため、逃走。
29:00 ネットカフェでデータを友人へ送信。

以上のデータから、真相に気づいた。
日本では、完全運転自動車の走行が少なく、走行データが効率的に集まらない。
また、同様に事故の発生を防ぐためのデータ収集機会も少ない。
そこで、夜間に企業側が設定した事故発生多発ルートを自動で走行するようにした。
その上、条件を最も厳しいものにした。
走行速度を法定速度越えにし、交差点を曲がる。
山道をノーブレーキで走行。

データは統合されて、走行性能はどんどん上がっていった。
しかし、事故を避けきれない時もある。
その証拠がへこみなのだろう。
後日、見つかった皮膚片のDNAを調べると、行方不明者と一致したそうだ。
私はこれを告発する。

・・・・・・

以上が、捨てられていた車から抽出したデータだ。
いつのまにか、日本の完全自動運転技術はC国、A国と肩を並べ、事故率は世界最小になっている。
安全のためには、犠牲は必要というつもりなのだろうか。

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