蜂のダンス(フィクション)

「最近、面白いことがわかったんだ。」
「ほお。今日は、どの動物についてかな?」
「これを作ってる彼らだよ。」
カール・フォン・フリッシュは、ハチミツを指差した。

「ある日、蜂たちを観察していたら、8の字を描くようにダンスしている傾向が見られたんだ。その理由を探るために、蜂が8の字ダンスをした後の行動を記録していってね。そしたら、他の蜂に蜜のある場所を教えているらしいことがわかったんだよ。」
「へえ、面白いなあ。でも、なんでダンスなんだろう?」
「多くの蜂に、場所を知らせられるからじゃないか?」
「それなら、音の方が広範囲に伝えられるだろう。」
「音なら、かき消される心配がある。やっぱり、視覚に訴える方が良い。」
「もっと効率的な方法もありそうだがなあ。」
「彼らにとっては、8の字ダンスが効率的なんだろう。これから、論文を書くつもりだ。」
「証拠として示せるほど、サンプル数があるのか。こりゃ論文出した結果が楽しみだな。」

巣にて。
「女王さま、よろしいでしょうか?」
「どうぞ、入って。今日はたくさん蜜が取れたわね。」
「はい。しかしながら、私たちはもっと蜜を集められるのではないでしょうか。」
「どういうことかしら。」
「あなたが指示されたダンスですが、あれは不要なのでは?」
「あなたもそのことですか。」
「はい。そもそも私たちは花粉の飛散を見ることで、蜜がどこにどの程度あるか、わかるではないですか。なぜあんな、手間のかかることをしなければならないのか。時間と労力の無駄ではないですか。」

女王蜂は、産卵を中断した。
「たしかに、短期的にはあなたの言う通りだわ。でもね、私はもっと長い期間で考えているの。次の女王の時代。更に次の時代とね。そして、他の家族たちのことも考えてる。種の生存をね。」
「どういうことですか?」
「あなた、2本足で歩く、大きな生物を見た?」
「はい。花を踏みつけながら歩く彼らですね。」
「そう。あれを利用するのよ。」
「何ですって?」
「彼らは、注目した生物を育てているらしいの。最適な環境を作ってね。偶然、過去に捕まった者たちを見かけて、どんな状況か聞いてみたの。巣を作りやすい箱を置いたり、冬でも寒くなくて花がいつもさいている環境にしたり。色々やってくれるらしいわ。」
「しかし、それは彼らが私たちの蜜を集めるために、最高の環境を整えていると聞きます。私たちは、蜜のために生きているわけではないでしょう。」
「そうよ。私たちは、子孫を残すために生きている。そのために、花を渡り、飛び回らなくてはならない。でも、蜜を渡すだけで、生活が楽になるのよ。何も特別なことはしなくて良いの。」

「女王さま。話が見えてきません。私たちがダンスをする必要があるのは、結局、何故ですか。」
「二本足の生物に、注目してもらうためよ。彼らは、単純な生き物じゃないみたいなの。生物も非生物も、注目するに値するとき、彼らは対象を回収する。調べるために。最高の状態にしてね。そして、有用であることが分かれば、育て続ける。育てるのに邪魔な敵は排除する。うまく利用できれば、安心して子孫を残せるのよ。」
「しかし、そんなにうまくいくとは思えません。」
「既に成功者がいるわ。」
「なんです?」
「植物たちよ。同じ種類の植物が大量に生きている場所を知ってるでしょう。」
「わかります。あれが、2本足の生物を利用していると?」
「そうよ。もっと昔、彼らはたくさん移動していたらしいけど、今は同じ場所に大量にいるでしょう。それは、植物が影響を与えたのよ。私たちも、彼らを操作して、うまく使えるはず。だから、気付いてもらうきっかけとして
、ダンスをするのよ。」

「私は、そんな管理される生活は嫌です。今の自由な方が良い。」
「何でわからないの。もう、いいわ。1つ欠けたって、すぐに生まれるわ。」
「えっ」

ガリガリ

「全く。ああ、ちょうどよかった。彼女、私のために働いて天寿を全うしたわ。丁寧に葬ってあげて。」
「わかりました。女王さま。」

オギャー

「ああ。ついに、次の女王が生まれたわ。彼女には、ダンスを徹底的に教えましょう。そして、花粉のことは忘れさせましょう。うまく、彼らを使えるように。」

〈了〉



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