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15.専任教員はつぶしがきかなければならない

1.純粋アカデミアとは異なる、今大学教員に求められること

社会人大学院生のころ恩師の中邨章先生は、「大学教員はつぶしがきかなければならない」とおっしゃった。多くの教え子の面倒を見て専任教員として送り込んできた先生の実感だと思うが、当時は大学教員になるつもりはなかったので聞き流していた。
しかし自分が大学教員になり、さらに副学長という立場になってみてその意味が良く分かった。それは自分の専門以外にどれだけ周辺の科目を教えることができるかが決定的に大事だということである。アカデミックキャリアの教員は、博士号を取得し、ポスドクを経る中で自分の専門でいかに業績を上げるかが問われてきた。それはいかに新しい知見を生み出すかであり、そのためには限りなくテーマを絞り込まねばならなかった。だが、大学教員としてはそれでは困るのである。

2.つぶしがきくとはどういうことか

例えば私が二つ目の大学に副学長・新学部設置準備室教授として招聘された時のことである。小さな大学のこと、副学長といえども授業を持つことが求められた。当時の学部長が来て恐る恐る次のような科目を持っていただけないかと申し出た。「流通システム論」「多国籍企業論」「経営組織戦略論」「サービスマーケティング論」「環境経済学」である。
私の学位は政治学修士であり修士論文は「変動する社会環境と自治体改革ービジネス手法の導入とその限界」である。内容を端的に言えば行政に経営を取り入れるということだ。だから前任校では公共経営論や社会的企業論などを担当していた。求められた科目はやったことがない。しかも、自分の専門はあくまで文化政策、アートマネジメントである(当時文化政策学会の副会長だった)。
私は「環境経済学」についてはまったく知見がないためお断りした。それ以外の科目については、もっともスタンダードな文献を基にして、理論を裏付ける具体例として自分の経験を取り入れればできると思った。例えば経営組織論なら十川廣國編著『経営組織論』を底本にするが自分は機能別組織が事業部制に変わりそれがまた機能別組織に変るプロセスを体験しているので本に書かれた理論の実例をいくらでも出すことができるのである。
サービスマーケティング論ではクリストファー・ラブロック+ローレン・ライト著『サービス・マーケティング原理』をもとに、ヤマハ時代にハードとソフトの両面でマーケティング実務を経験した事例を取り入れた授業を行った。写真はマーチャンダイジングを理解させるために、グループを組んで学内にある自動販売機を観察し各社の戦略の違いを考える授業である。

3.だから実務家教員は有利

小規模の大学では、教員の数が限られ、予算的に非常勤講師を際限なく雇うことができないため、専任教員は一人で多くの科目を持つことが求められる。自分の専門に固執し「それ以外はできません」では話にならないのだ。その点実務家教員は有利である。例えば経営や経済の分野なら、理論をしっかり学びながら、それを学生に理解させるために自分自身が経験した幅広い事例を裏付けとして用いることができるからである。
だから以前述べたように、文系で企業でマーケティングなどを担当しながら実務で数理・データサイエンス・AIを活用した経験があれば大学教員としてぜひ(学位があれば)採用したいと思ってもらうことができる。

次回以降は実際の大学教員の仕事を詳しく紹介するので、自分が向いているのかどうか判断してもらいたい。


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