喋れるお仕事で喋れない事と失声症

初めましての方は初めまして、そうでない方はそろそろ欲しくなるアイス程度の心待ちで頂きたい十五夜 龍雅です。最近はめっきり暑くなってしまいアイスが手放せませんが、知覚過敏が怖い今日このごろ。歯医者に通い詰める人も増えてきているんじゃないでしょうか。

さて今回は私が喋れなくなった事についての話です。喋れない事については環境により喋る事が出来ず押し黙ってしまう緘黙症とか物理的機能損傷による失語症などが挙げられますが、私が罹患したのは心因性の声帯機能喪失。今回はそれについて記載し、少しでも理解してくれる方が増えれば幸いです。

喋るお仕事で喋れなくなる

当時私は求職中であり、藁にもすがる思いで採用手続きを経て就職した仕事の初日を迎えていました。業務内容は今でいうテレマーケティングで、指定された電話番号に発信をし商材を宣伝し契約を取ってくるというものでした。当時扱っていた商材は一軒家に取り付けるソーラーパネルで、だいたい郊外のパネル用地開発とかがにわかに注目を集めていた時代でした。

当日は午前9時出勤、そこからオリエンテーションを経て9:30より仕事を開始。18:30までの業務です。皆さんはテレマーケティングというと色々業務形態を想像するかもしれませんが、こちらの目の前には電話一台と紙の台帳があるだけでした。台帳にはどこから漏れたか分からない電話番号が大量に記載されており、地域ごとに区切りが設けられておりそれをリストの上部から発信しまくるという力技でした。

その最中、メンターと思わしき人物からは絶えず罵声が飛んできます。やれ「300件かけたら一軒は必ず契約が取れる」だの「どうしてそこまでかけて成約できないんだ」だのというテイストです。もちろんお昼休憩を挟んでメンターが変わる事はなく、継続して罵声の中モシモシするという状況でした。

その日は結局一軒も契約が取れず、罵声を浴びながらも退勤し自宅へ帰り着きました。私の心中では「明日もこういう仕事をしなきゃいけないのか」という思いがあり、結局ろくに食事も取らず布団に身を横たえていたのを覚えています。そして翌日、私の喉に異変が起こりました。

一度空気がひゅっと抜けた後、喉が一切動かない状況になったのです。

喋れないという事態と失声症

雇用先にひとまずメールで連絡を入れ、まずは内科を受診しました。その頃は既に「仕事と鬱とワーカホリック」で書いた通り、心療内科の存在は知っていたもののまずは身体の物理面での問題なのか否かという切り分けを行いました。結果的に脳に異常はなく、筆談しながら心療内科への受診を希望し予約を取り付けて診察を受けました。その結果明らかになったのが、心因性失声症という病です。

失声症と失語症はその原因からして大きく違い、何らかの理由で声帯が動かなくなるのが失声症、物理的な脳の損傷等による言語機能の欠落が失語症という説明でした。つまるところその時私は仕事に向かわなくてはいけないというストレスにより声を失う事となりました。処方箋を貰い、薬を飲み、自宅に戻って静養に努めようとしましたが全然声が出せない状態が続きました。

声が出ない状態とはどういう感覚かといいますと、喋るときに大体の人は喉が震えると思います。低い声であーっと言ってみると多分分かりやすいのですが、プロセスとしてあーっと言おうとするとその後に声帯が震える、その「あーっと声帯を震わせる」橋渡しが断絶せず空気だけがスーッと抜けるという状態です。この状態が2週間以上続きました。人と喋る必要がある事も多々ありますが、そういう場合は全て筆談です。これまで筆談のコツやら何やらを学んだ事が無かったので、全て手探りの中生活を続けました。

声の出し方を変える事で発声を可能にする

ストレス下での失声症の発症から3週間程経った頃、今までと違う方式で喉を絞る事に挑戦していた私は何とか蚊の鳴くような声でギリギリ喋る事に成功しました。もちろん発音はたどたどしいですが、そこでようやく声を出せる段階にまで戻ってきました。喋れる事に安堵しつつ、一日のうちで何度か喉を集中的に動かし喋る努力を続けました。その結果、4週間目にはより大きな声で(といっても普通の話し声からしたら小さかったですが)喋れる様になり、そして遂に一ヶ月少々(多分32~35日程)で元の声量を保ったまま、別の方式で今までと変わることの無い発声が可能となりました。

やり方だけ考えれば完全に筋肉式というかマッスル全開ではあるのですが、声を出せるようになった要因の一つとして「仕事を休んだ」事も欠かせません。もちろん勤務二日目にこんな症状が出たので当然クビになりましたが、無理を押して続けていたとしても、声の出ない中で通話業務は出来ませんからどちらにせよクビとなったのでしょう。

働けないということと、自分の身体を守るということ

私は以前の記事でも記載した通り、ストレス下での体調不良が極端に発生しやすい為にこの時は失声症という症状が発生しました。世の中には身体や精神が敏感な方は多数いるでしょうし、逆にそうではない方も多数いるでしょう。そして、得てして「働けないのは悪いことではないか」という自己責任感や「何かしらの理由で楽をしているんじゃないか」という謂れなき誹謗中傷が起きる事もままあります。

ですが病はなってみなければ分かりませんし、罹患して初めて自分が健常である時のありがたさに気づけ、また健常であろうとした時の身体へ戻そうと努力する事になるでしょう。あなたは24時間365日健康である必要は無いですし、人間はそういうものです。自分の身体を第一に守って下さい。責任論を展開する外野の人物は言うだけ言って攻撃するだけで、貴方の心も身体も守ってはくれないのです。

自分が何か出来る事は無いか、出来なかった事はどうなっているのかという使命感と罪悪感。また一方で自分が楽になりたいという焦燥感、ある種楽である環境にある人物への羨望。これらが不満点として蓄積されるのではなく、少しでも解消されるような社会が実現される事を願って止みません。

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