世界でいちばん一番美味しい梅酒は焼き鳥の煙と共に(きむら@仙台)

あまりお酒を飲まない私にも、ひとつだけ大好きなお酒がある。

仙台駅から少し歩いた飲み屋街、文化横丁。数々の名店が店を構える横丁の入り口付近に年季の入った焼き鳥屋がある。焼き鳥きむらだ。初めて入るには勇気がいる入り口だが、勇気を持ってその引き戸を開けば、おばあちゃんとお姉ちゃんが迎えてくれる。2階建ての店内に人がひしめいている。カウンターでおばあちゃんが手際よく焼き鳥を焼いている。香ばしい煙が香る。

私は学生時代を仙台で過ごした。初めてきむらを訪れたのは、付き合ったばかりの彼氏に連れられてきたときだ。付き合ったばかりで焼き鳥なんてと思うかもしれないが、お金のない私たちには、安くて美味しいきむらはぴったりのデートスポットだった。

季節は夏。2階の座敷に通されると、窓が全開になっていて、文化横丁の看板が見える。なんて風情のある景色なんだろう。お通しの山盛りのお新香が運ばれてきて、ビールの飲めない私は梅酒をロックで注文した。一杯なんと200円。あと焼き鳥全種類2本ずつ。そんな大胆な注文ができるのは、一本たったの80〜90円だからだ。

きむらの焼き鳥はちょっと変わってて、メニューは豚バラともつ焼がメイン。もつ焼はタレと塩が選べるけど、いつもおすすめでお願いしていた。

先にやってきた梅酒とお新香で飲み始める。満杯の店内はとても賑やかで、あちこちから笑い声が聞こえる。それぞれの幸せが溢れている。夏の仙台の夜は涼しくて、窓からは心地よい風が入ってくる。

焼き鳥がくる。豚バラ、白、レバー、皮、タン、ハツ、砂肝。大きくはないけれど、どれも絶品だ。梅酒に、合う。そしてこの梅酒の美味しいこと。こんなに美味しい梅酒が200円なんて信じられないと思った。

「こんな店なんで知ってるの?」と聞いたら、「元カノに連れてきてもらった」だそうだ。なんだそうか。

でもこの日から、きむらは私のお気に入りになった。寮の友達と飲む時はもちろん、遠方からの友達と飲む時も、牛タンじゃなくてきむらへ行った。国家試験の打ち上げに、会場からそのまま行った日もあった。

ある日カウンターで知ったことだが、この200円の梅酒、どこにでもあるパックの梅酒だったのだ。自分で買って家で飲んでみたけど、そこまで感激する味ではなかった。そうか、この店で、この焼き鳥で飲むからこの梅酒はこんなに美味しいんだ。

あれから、苦手なりにいろいろな美味しいお酒を知ったが、あの200円の梅酒を超えるお酒には出会っていない。

余談だが、当時の彼氏を超える人に出会わなかったので、彼は夫となったとさ。

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