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経営合宿の進め方(3)

経営合宿について、3本目の記事を書いてみる(1本目はこちら、2本目はこちら)。最終回の今回は、経営合宿当日に何をやるか、その先に何があるかを整理してみたい。


経営合宿、当日

事前の準備を終えたらいざ本番、経営合宿の当日だ。僕の場合は、大体お昼くらいに現地へ。ランチをしながら今日の動きの確認とサブアジェンダについて議論する。

役員や役職者にはひっきりなしにメールやチャットが飛び交うだろうから、この時に「今日はあくまでも経営合宿に集中しよう」と声がけをするといいかもしれない。でないとメール返信に気を取られ議論への参加が不十分になる人も出てくるかもしれない。

サブアジェンダはスマホなどで内容を確認しながら議論する。結論が出たらメモしておき、アクションが必要ならタスクに落とし込む。通常の経営会議のイメージと変わらない。

会場に着いたら、PC環境やWi-Fiを準備し、メインアジェンダの議論を開始する。とはいえ最初はリラックスモードでやりたいので、音楽をかけながらやることも多い。なんせ半日間ぶっ通しで議論したり、資料作成に集中しないといけないのだ。

僕の場合は、社会情勢の確認と昨年度の振り返りから始める。社会情勢の確認については、例えばコロナ禍であれば、コロナ禍によるリモートワーク環境の推進が世の中増えてきたとか、AIが流行り始めれば最近はどの業界も生成AIの活用による労働人口減少に対する動きを加速させているとか、政府がスタートアップ向けにX兆円の投資を決めたらしいとか、自社に関係ありそうな社会情勢について認識合わせをするイメージだ。
昨年度の振り返りについては、昨年度設定した目標と、その達成具合を定性、定量的に確認する。また、昨年度を振り返ってみて、トラブルや課題の抽出、反省すべきことがないかを話す。もちろん、ポジティブなことも話す。


MVVについて議論する

次に議論するのが、MVVについてだ。MVVとはミッション・ビジョン・バリューの頭文字をとった言葉であり、経営学者のピーター・ドラッカーによって提唱された会社の指針を整理するためのフレームワークだ。
会社の指針を決められるのであれば、MVVというフレームワークにこだわる必要はなく、パーパスでもいいし、別のフレームワークでもいいと思う。フレームワークはきちんと決めたうえで、そのフレームワーク自体の勉強はしておいた方がいい。

フレームワークを決めずに、雰囲気で作るのはおすすめしない。MVVに関して言えば、言葉作りに終始して、MとVが逆になってしまったり、重複した内容になってしまったりすることがある。
そのため、「なぜMVVのフレームワークを選んだのか」「Mとは、Vとはなんなのか」という定義からきちんと言語化しておくと議論の方向性を示しやすくなると思う。

MVVを作った、またはすでに作っている会社については、現在の会社が果たして本当にMVV通り経営できているかを確認する場にするといい。

経営合宿資料の一部抜粋(MVV)

Smart-IP社の場合は、バリューの⑤に「全力で仕事を楽しむ」という価値基準がある。これを例にとると、「本当に半年間、仕事を全力で楽しめたか(Smart-IP社は経営合宿を半年に1回の頻度でやるため)」「周りは楽しんでいるか」などを振り返る。
実践できたか、できていない場合は何が足りなかったか。そもそもこのMVVで合っているのかを、経営合宿の場で確認するようにしている。


事業計画を立てる

MVVの作成や確認が終わったら、次は事業計画だ。事業計画といってイメージするものは人によってバラバラだと思うが、僕の場合は

  • 5ヵ年における各種計画のとりまとめ

    • 収支計画

    • 人員計画

    • 開発計画

    • 販売計画

    • 知財計画

    • 管理計画

  • 時間軸で見た場合のビックイベント

 をスプレッドシートで整理している。
 計画については、まずMVV実現という最終ゴールに対するロードマップを5年分に分解して設定する。できるかどうかはあとで考えればよく、ここではゴール(MVVの実現)から逆算したらこうなるはずだ、というスケジュールで引く。そのうえで、出てきた数字に対してあまりに非現実的なものは修正をかける。
 なお、実現可能性の高い順に計画を立てるのはお勧めしない。ゴールイメージを無視した予定調和的な計画になるからだ。どうせ5か年で計画を立てるなら、目線高くチャレンジングなものにしたい。

 事業計画なんか要らないという人もいるかもしれないし、作らなくてもうまくいく会社はいくらでもある。ただ僕のような平凡な人間が会社経営をする場合は、このように最終的なゴールの設定と意義から逆算して中長期的にどう動くべきかを取りまとめなければ、その場しのぎ的な経営になってしまうんじゃないかと思っている。

本年度/来年度の目標を立てる

5か年の事業計画ができたら、自ずと今年やること(今年度の目標)と、来年度やること(来年度の目標)も決まる。

目標は定性的な目標と、定量的な目標に取りまとめるようにしている。定性的な目標だけだと抽象度が高いもので終わる場合があるし、定量的な目標だけだと数字だけになってしまい無味乾燥となるからだ。なので、無理やりにでも両側面から定義するようにしている。

例えば、Smart-IP社の場合は今年は6月初旬に経営合宿を行ったが、今年度の目標は、定性目標を「売れるものを作り(プロダクトクオリティの確保)」「確実に売る(マーケティング/セールス戦略の確立)」とした。ここでは書かないが、当然これに合わせた定量目標も決めている。こんな具合だ。

経営合宿資料の一部抜粋(2024年度目標)


各本部の目標を設定する

最後に各本部の目標だ。例えば、Smart-IP社の今年度の全社目標として「売れるものを作り」「確実に売る」があるが、例えば「売れるものを作り」に注目した場合、これを実現するための本部は事業戦略本部と開発本部の2つになる(「売る」はマーケティング本部の役割になる)。

そこで、さらに本部ごとの目標に沿うように、全社目標を分節し、「売れるものを」と「作り」に分ける。

前者はプロダクトクオリティを保証するものになるため事業戦略本部のPdMにより実現されるべきものであるから、事業戦略本部の目標となる。後者は開発本部のテックリードにより実現されるため、開発本部の目標となる。
事業戦略本部はプロダクトクオリティを担保するために何をするのかということで、さらに具体的な目標設定を行うという要領だ。

より細分化された目標に対して、それを実現するための戦術レベルでのアクションをタスクとして言語化し、各タスクをいつ行うかのロードマップを作成する。ここまでを経営合宿資料に落とし込むことで、経営合宿は終了する。


経営合宿のその後

以降は、経営合宿の成果物としての資料をもとに、全社員向けの説明会を開催し、社員の目線を少しでも合わせられるようにする。加えて、各本部ごとのロードマップの進捗状況を、各本部単位での週次定例で確認することで、会社全体がMVV実現に向けて足並みをそろえながら動けるようにしていく。

会社経営について経営者が考える意味でも、経営者の思いや考えを社員に伝えるためにも、経営合宿の開催は意味があるものだと感じる。この記事を読んで経営合宿をやってみたいと思ってくれた経営者が、知財業界にひとりでも増えてくれたら嬉しい。


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