価値観4(最終)
ちょっとしたハプニングのようにファミレス内が静まり返っていたが30秒ほどで元の賑やかさに戻る。
ミキが振り向いて言う。
「こっち来れば?」
事が終わった後で別々に座っている意味も無いのでミキの席へと移る。
事情を把握できずにいる周りの視線が私に注がれる。
座ると当たり前だが目の前には手付かずのステーキセットがある。
「それ、頂いたらいいじゃん」
ミキが笑いながら言う。
「そうだな」
このまま残しても仕方ないので頂くことにする。
ファミレスで3000円も使う事が無いのでご馳走だ。
「無事に終わってよかったな」
ご馳走を頬張りながらミキに言う。
「悪い人じゃないんだけどね、お金の話しか出てこないから退屈でさ。
価値観が全く違うから申し訳ないけどお付き合いの相手には見れないのよ。
でもお金に興味がある女の子だったら1発で食いつくからノーダメでしょ」
ミキもパンケーキを頬張りながら答える。
美味しそうにパンケーキを食べるミキを見るが本当に以前よりもきれいになった。
ミキは私の視線に気付くと「惚れ直した?」と笑いながら聞いてきた。
「いや、本当にきれいになったなと思って」
素直に自分の感想を伝えるとミキの耳が赤くなる。
「お!照れてるのか?珍しいな」
揶揄うと真面目な顔でミキが言う。
「タツヤと別れてから誰といても面白くないんだよ、みんなどこか違うんだよね。
でもタツヤとよりを戻すのもなんか違うような気もするしタツヤも嫌だろうしね」
「タツヤも嫌だろうしね」と保険をかけて言う辺りもミキにしては珍しい。
まあミキとは気も合うし一緒にいて楽しいが生涯のパートナーではない。
それはミキも分かっているからの発言だろう。
楽しいだけで過ごしていてもお互いに時間が無駄になる、特に女性は。
少し考えて私はミキに聞いた。
「土日は休み?」
ミキは首を縦に振って答える。
「他の土日は出勤だけど、明日明後日は月に1回とれる土日休みだよ」
ミキがどう答えるか不安だったが思い切って続ける。
「じゃあ久しぶりに夜は汗でもかいて昼は一緒に遊ぶか?」
ミキは驚いた表情の後ににっこりと笑って答えた。
「うん!」
そのまま駅前のホテルを日曜日までおさえた。
金曜日の夜:久しぶりの再会に燃える
土曜日の昼:健全に外で遊ぶ
土曜日の夜:また燃える
日曜日の昼:健全に外で遊ぶ
日曜日の夜:最後を噛みしめながら燃える
月曜日の朝、一緒に駅へ向かった。
会社が別方向なのでここでお別れとなる。
「じゃあ、元気で」
手を振って互いに違う改札へと進んだ。
私は振り返らなかったのでミキも振り返ってはいないだろう。
この3日間を最後にミキとの関係は終わった。
私の考える男女関係が婚姻に囚われずにもっと自由だったのなら結果は違ったのかもしれない。
しかし「生涯のパートナー=婚姻関係」と考える私の価値観とミキの価値観が違ったという事だろう。
ミキの番号は今でもアドレス帳に入っている。
ただミキの名前が着信履歴と発信履歴に表示されることはないだろう。
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