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価値観2

ミキは高校生の一時期に大学生とお付き合いをしていた。
ただ高校生のミキが考える付き合いと大学生が考える付き合いが違った。
当然のように体の関係を求めてくる大学生に付いていけずミキは別れを切り出す。
そこで言われた言葉が「最後のチャンス」という言葉だ。
「謝りたいから最後のチャンスで会ってくれないか」
そう言われ夜の公園で暴行されそうになった。
幸いにも散歩中の男性が気付いてくれて難を逃れたという。
その大学生は後に逮捕され地方紙には小さく報道されたらしい。
「最後のチャンス」という言葉はミキにとってトラウマに近い言葉になる。

チキンの照り焼きを切れないナイフで切りながら私は言う。
「でもさ、高校生の頃の奴と違って社会的地位もある次期社長じゃん?」
「黙ってても女なんて寄ってくる身分なんだし馬鹿みたいな事はしないだろ」
チキンの照り焼きがうまい。
「そう思うよ。私が気にし過ぎてるのも分かるんだけどさ」
「でも女の子にとってあの体験は恐怖以外の何物でもないのよ、分かる?」
ライスは大盛にしてもらえばよかった。
「まあたしかに男の力で襲われたら怖いわな。いや、男でも怖いよ」
「でも俺に何かできる事ってあるの?」
ミキは顔の前で手を合わせながら言った。
「その最後に会う日に立ち会ってくれない?」
「へ?」
マンガでしか読んだことがないようなセリフが口から出てきた。
「いや、さすがにそれは気まずいでしょ」
そう言う私にミキは首を振りながら答える。
「違う違う。隣に居なくていいから、私が見える位置にいてくれるだけでいいの」
「どう転んでも私は彼とお付き合いするつもりはないの」
「あと念のため雰囲気に流されない様にもファミレスで会うつもり」
「その時に後ろの席にでも座っててくれればいいから」
お断りするその場面を見届けて無事に終わる所を確認してほしいとの事らしい。
「そのくらいならいいよ、元彼に任せなさい」
想像していた相談事よりも大した事が無かった。
「ありがと!助かるわ~」
ホッと胸を撫でおろしたミキがふと顔を近づけ小声で囁く。
「お礼ってわけでもないけど久しぶりに汗でもかく?」
悪戯っ子な視線に惑わされそうになるが元カノなんだと自分に言い聞かせる。
「いや、またズルズル続いてもお互いよくないだろ?」
「俺は元彼なんだから対価はこれで十分」
私はテーブルに丸められている伝票をミキに渡した。
「え~、私の体はランチ代よりも安いのかよ~」
ミキはぶー垂れながらも笑いながら伝票を持ってレジに向かった。
「ま!タツヤのそういう所が好きなんだけどね」
ミキを駅まで送り私も家に戻った。

翌日ミキから連絡があり最後のチャンスは暇な来月頭の金曜日に決まったらしい。
まさに決戦は金曜日だ。
場所は昨日ミキと会ったファミレスだった。

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