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残像に口紅を

人間はいつも使っている言葉がなくなると、変わってしまうものだなと彼は思う。人間ではなく、まるで人間を装っている何かのようだ。

残像に口紅を 筒井康隆

世界から「あ」がなくなり、「愛」も「あなた」も消えた中で、最後の「ん」が消えるまで果たして「にんげん」は存在していたのだろうか。
音がなくなりゆく現実と虚構の調和の中で、それでも残像の愛を向けた先は「にんげん」なのではないだろうかと思えるこの一文が心に残る。
だからこそ最後に消した音は「ん」であると願っているし、これは決して五十音の秩序でないと信じている。
そして口紅という表現になるのだろうと。

「本当に失いたくないものは、遠ざけておくものだ。」とは、言い得て妙だと思う。
もしかしたら、「愛」と「あなた」こそ本当に失いたくないものだから、初めから無かったものとして扱ったのかもしれない。

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