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【第8回】 フーテンの寅さん GIST(消化管間質腫瘍)

わたくし、生まれも育ちも東京葛飾柴又です。
帝釈天で産湯を使い、 姓は車、名は寅次郎。
人呼んで "フーテンの寅" と発します。

「男はつらいよ」主題歌より

題のフーテンとは「男はつらいよ」で主人公の寅さんが話す、口上から取りました。

病の語りを聴き、患者さん、聴き手の未来を創るというMedipathyという活動の振り返りです。順不同で更新していきます。

今回は8回目のゲストであるGISTのOさんです。
(掲載許可を頂いています。)
この方は現役の緩和ケア医でもあり、ベストセラー(?)作家でもあります。

男はつらいよの寅さん

寅さんとっても僕は世代じゃないですし、映画もほとんど見たことはありません。物心ついた時にはすでに渥美清さんは亡くなっていました。

そんな僕でも寅さんとくれば、粋。というイメージを持っています。同じように、寅さんといえば、粋。というイメージを持つ人は多いのではないでしょうか。

振り返ってみると、寅さんから感じるような粋さを、Oさんからは感じました。
ハンサムという部類ではおそらくないですし、お坊さんヘアーが似合っています。
馬が大好き。馬は投資や!と言ってらっしゃいます。
収支はプラスなのか怪しいです。
そしてよう喋ります。
患者風を吹かすがモットーらしいのですが、たまに暴風です。
ご自慢の歌はジャイアンとどっこいどっこいです。
すみません。Oさん。。。笑笑

そんな、筋金入りの阪神ファンみたいな方ですが(実際は中日ファンらしい)

なぜか、佇まいや言葉に粋を感じる。

その要因をOさんの著書の言葉と、90年ほど前に書かれた九鬼周造の「いきの構造」を基に考えていきます。
ちなみに、この本は岩波文庫や青空文庫にあります。

いきの構造

九鬼周造によると
「いき」は以下のの三つからなると考察されています。

  • 「媚態」

  • 「意気地」

  • 「諦め」

「媚態」とは異性に媚びる態度ですが、九鬼によると
”媚態の要は、距離を出来得る限り接近せしめつつ、距離の差が極限に達せざることである。”
とされています。

「意気地」とは江戸っ子の“宵越しの銭はもたねぇ“、”武士は食わねど高楊枝“のような痩せ我慢というイメージです。

「諦め」とは九鬼によると“運命に対する知見に基づいて執着を離脱した無関心である”とされ、いわゆるその状態が垢抜けていると意味されます。

総括すると
いきとは「垢抜して(諦)、張のある(意気地)、色っぽさ(媚態)」と定義されています。

哲学的な考察になりましたが、それぞれ、Oさんの言動から見ていきましょう。(いきの構造の論考はもう少し深いですが、一旦はここまでで。)

媚態

とにかくOさんは媚びるのがうまいと思います。
Oさん自身も「最後のお願い詐欺」と言っておられます。僕も最後のお願いを何回かされました。

しかし、媚びるという言葉の意味とは裏腹に、なぜか嫌味や不快感を受け手に感じさせない、むしろそれによって受け手が喜ぶのが、Oさんの媚態のすごさだと僕は思っています。

また媚態といえば異性に対する行為と想像できますし、Oさんはどれだけプレイボーイなんだろうか?と言われますと、わかりませんが。。
まぁ、著書の至る所に奥様とのノロケが散りばめられています。笑

ですが、Oさんは媚びてばっかりではありません。

媚態における重要な要素として、
“距離を出来得る限り接近せしめつつ、距離の差が極限に達せざること”
と先ほど紹介しました。

Oさんは遠慮しないでノーと言える方でもあります。
めんどくさい相手には最大限の感謝を込めてお断りするそうです。「ええい、この紋所が目に入らぬか!」と言わんばかりに断る時もあるかもしれませんが。。

がん患者の立場から媚びる。でも、相手に媚びすぎない。そのバランス感覚が非常に上手だなと感じています。

意気地

発症前の突然の下血、ジストとの戦い、副作用、転移、コロナ禍、そして今なお続くがんとの戦い。Oさんとがんの苦闘の話をあげればキリがありません。その語り口は迫真に迫るものがあり、リアルな想像が掻き立てられます。

そして何より面白いのが、
「私、しんどい治療に耐えて毎日ヘロヘロやけど、頑張っております!」
と口では言いながらも、痩せ我慢が見え見えである点です。丸見えです。
だからこそ、周りは応援したくなるのでしょうか。

男はつらいよの寅さんも、口では偉そうなことを言いながらも、痩せ我慢が見え見えです。口では強がっているけど、本心が丸見え、全然隠せていない。失恋シーンは見事なほどに。

諦め

患者風を吹かせて、しぶとく生きとります。

がOさんのキャッチコピーなのですが、僕はOさんの根底に、生の執着に対する諦めを感じます。

ここで執着に対する諦めとは、美味いもの食いたい、ええ車乗りたい、というものです。がんになったことで、できることが限られた。
でも、そんな中で自分にとって大切ではないものをバッサリと切り落とし、手放す。

そうすると、一見、ポエムみたいな言葉にも不思議と力がこもります。

「なんで俺はがんになったんや?」をやめて、「そういうさだめや。」
「しんどい時はなーんもしません。」
「のんびり、ぼちぼちいこか。ただ楽しかった小学生の頃の寄り道みたいで。俺の人生、今が放課後や」

諦めというか、非現実性的なものに対する達観があって、一日一日を頑張れるどっしりとした土台ができたのでは。と考えています。

寅さんの持つ言葉のパワーも、諦めから来ると思っています。
成金みたいな登場人物が金や地位にものを言わせ、寅さんをやり込めようとするシーンがあります。しかし、寅さんは金や地位など世俗的なものに対して、スカッとした諦めがあるので、相手の言葉をのらりくらりとかわします。そして、本質を突いた言葉で相手をKOさせます。

Oさんや寅さんの芯を捉えたような言葉の強さは、そんな諦めが根底にあるではないでしょうか。

生きてる? そら結構だ

以上、粋というテーマでOさんを振り返ってみました。

ここまでOさんの粋さを褒め称えてきましたが、やっぱり寅さんと比べると、まだまだですね。
と言いつつも、僕はもっともっとまだまだですが。。。笑

そんなOさんと一期二会、もう一度お会いできることを楽しみにしております!

最後は寅さんの言葉を
粋ることを目指す現役がん患者Oさんへ

生きてる?そら結構だ


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