令和2年(わ)第1282号 京都アニメーション事件のまとめ(公判11回目~15回目)

10月2日に第11回公判が行われた。

前回に引き続き証人喚問。京都アニメーション社長に対して行われた。


第11回公判

社長が言うのは、建築基準法などの法令は準じて作っているとのこと。
内装については目に優しい事を意識していて、木を使っていた。

らせん階段と、もう1つ階段があるのは効率性を考えて。
さっと上下の移動ができるように考えた。

被告人はアイディアを盗まれた、と言うが
京都アニメーションは、人のアイディアを盗むなんてできる会社ではない。自分で考えて打ち合わせしている。
社長は、こう語った。

京アニ大賞の審査について、弁護側から質問がされた。

大賞の応募には多くの作品が投稿されているので、作品のあらすじだけで見切るしかなかった。

1次審査は本当にざっくりと見るだけで、青葉被告の作品は1次で落選した。

そして、応募された作品の一部アイディアを使いたいと連絡する、なんて事は絶対にない。


そして弁護側は放火による被害者の多さは建物の構造が影響した可能性を指摘した。

社長は、消防訓練については法令に基づいて行っていたと証言する。
しかし、1階で火事があり2階、3階の人が逃げられないような状況を想定していたワケではない。

具体的にどう逃げるか、までは把握していなかった。

そして消防職員による証人尋問が始まる。

第1スタジオについては特に問題はない、との証言。
らせん階段は、炎や煙の広がり方について影響がない、とは言えないようだ。

平成30年(2017年)11月に訓練を行った。
その時の内容は3階に炊事場があったので、そこを出火場所として訓練していた。

この時の想定は1階から屋外に出る。西側の階段を使用して避難するようにしていた。


事件当日、らせん階段には段ボールが置かれていて、歩く幅が狭くなっていた。
この点を弁護人が指摘する。

しかし、これだけで法令違反とは言えない。
物はない方が良いが、個人の判断で避難上の支障があるかどうか見ている。

仮に1階の玄関から避難できないような、そんな想定の訓練はあったかとの裁判員の問いに
1階の屋外へ安全に避難することを想定していた、と消防職員は言う。

更に屋上へ逃げる訓練をしていたら・・・鍵の開け方の事も聞く。
屋上につながるカギに問題があると分かっていたら、消防として交換を指摘していた可能性はあるか?
については「確定的な話はできない」と答えた。

階段が1人しか通れない状態は、違反の対象になるし、その場で指示をするし、口頭で行う。
しかし京アニに対しては問題ないと考え、指導などはしなかった。

この件の後、消防指導については想定の範囲が変わった、と言う。
(個人的には万が一にも程があるとは思う)

京都アニメーションは定期点検について半年ごとに提出されていたようだ。

筆者のつぶやき

原因はガソリンを撒き、火を放ったことによるものだが、建物構造上の問題や京都アニメーションの火災対策について、ちゃんと行われていたか確認された。

事実として36人の死亡と32人の重軽症が起こったが、その因果関係の確認だろう。
建物の構造的に問題があったり、消防訓練などに不備があれば、その分の過失が京都アニメーション側にあったと裁判で認められるからだ。

だが消防職員の証言からすると、京都アニメーション側の過失は認定されづらいと個人的には考える。

ガソリンをぶち込まれ火を放たれる事を想定して建物を作れ、なんて話は無茶苦茶でしょう。
京都アニメーションは政府の重要機関じゃあるまいし。

第11回は、ここまで。次回は被告人質問が行われる。

第12回公判

期日がいくつか省略され、10月11日に12回目の公判が行われた。

前回の後半では京都アニメーション社長が、アイディアの盗用を完全否定した。
それに対する被告人質問から始まった。

青葉被告は
読んでないはずはない。裏の意図というか、誰かがパクる事を指示したんじゃないか・・・と言う。

ここでまた出るのが「ナンバー2」である。

被告からすると「基本的には」と言った以上は、意図があれば第3者による落選の可能性もある。
こういう主張だ。

※産経の記事を軽く読み返した限りでは、完全に否定している。「基本的には」とは言っていない。

被告は、ナンバー2は京都アニメーションに見返りのカネが流れていたんじゃないかと言う。

●ここで弁護人が話を変える

被告は第1スタジオが全焼した事を知らなかった。
警察の聴収の時に写真を見て知った。
まさか、ここまで大きくなるとは思ってなかった。

●さらに責任能力についての話になる

この裁判については責任能力を争う。この事は被告が決めた事ではない。
鑑定医は「妄想性障害」だと診断。
過去に服役していた刑務所では、統合失調症だと診断されていた。

薬を服用していたが、改善しなかったようだ。

妄想性障害については自覚があるわけではなく
もともと、何かを考えたり思い浮かべたりする癖があるから、そう言われたのかなと被告は感じたそうだ。

被告は当時、漠然とした考えで「京アニなんか、なくなってしまえば」と思っていた。

裁判長は「どれくらいの犠牲者が出ればいいと思っていたか」と問う。

被告「7人か8人、9人、たぶん2桁までは考えなかった」
裁判長「それ以上の人が亡くなればいいのに、という気持ちはあったか」
被告「それはあったと思う」

このように答えた。

また、被告は“らせん階段”がある事は認識しておらず、上階へ燃え広がるとは考えなかった、と述べた。

筆者のつぶやき

争点が被告の責任能力のアリナシなので、妄想だらけだったことを裁判で話させる事にしたのでしょう。

基本的には、この点から減刑を取ろうとしている。

ついでに被害想定は、想定外過ぎたことも裁判中に入れたが
これはあまり意味が無いと考える。(私は)

殺人や放火は故意犯ですし、いくら永山基準があったとしても結果的に36名が死亡したので、単純に見れば死刑相当が出てもおかしくないでしょう。

やはり当時、どれだけ精神的に崩れていたのか。ここがポイントとなりそうだ。

あくまでも個人的な意見だが、現段階ではまだ分からない。
心情的には死刑判決を出したいが、公正中立に考えると、まだ判断しかねる。

参考記事

第13回公判

裁判期日が取り消しになり、13回は10月23日に行われた。

13回では当該裁判の最大の争点となる、被告人の刑事責任能力を巡り、検察・弁護側の双方が主張をした。

検察側は「完全に責任能力があった」
弁護側は「慎重な検討を求める」

証人として出廷したのは、起訴前鑑定を行った大阪赤十字病院の和田医師。

京都アニメーションを犯行対象に選んだ動機に関し、妄想の影響が及ぶとしたものの「それ以外については影響は認められない」と指摘した。

犯行自体への妄想の影響は、副次的だとした。

副次的→主たるものじゃなく、従たること。

ただ「妄想性パーソナリティー障害」だったと診断している。
これは精神疾患ではなく、犯行への影響は認められない。と言い切った。

責任能力の有無は

  • 善悪を区別する能力

  • その区別に従い、犯行を思いとどまる能力

この、どちらかが欠けてていても心神喪失となる。

妄想性によるものの場合、その影響が圧倒的に強く、衝動が抑えられない場合でないと、責任能力があるものと判断される。

和田医師によると「動機の要素が、現実世界の出来事が主たるものだった」と説明し、妄想による影響は部分的だと証言した。

筆者のつぶやき

妄想性パーソナリティー障害は、他者が自分に対して何かしてくるんじゃないかと疑ってしまう病気である。

つまり当人は正当防衛のつもりで、他者を攻撃してしまう。

被告は「闇の人物」や「公安」を口にしているが、それだけで実際の犯行を追ってみると、結構合理的な犯行をしていると言える。

京都アニメーションの本社は木幡で、第1スタジオは六地蔵。
普通、大きく狙うなら本社である。

だが、物理的に大きいのは第1スタジオで、最寄りのガソリンスタンドまでの距離は第1スタジオの方が近い。

そして本社より第1の方が周辺の被害が出づらいだろう。

とても計画的な犯行だと感じる。
本当に京都アニメーションをぶっ壊したいほど精神がおかしくなっていたら、周辺の事なんぞ考えないだろう。

私は責任能力があるんじゃないかと、考える。

次回期日は10月26日を予定。
もう1人の精神鑑定医に対する証人尋問が行われる予定だ。

参考記事

第14回公判

10月26日、第14回公判が行われた。

起訴後、弁護側の求めに応じて、裁判所が精神鑑定を依頼した、東京医科歯科大大学院の岡田幸之教授の証人尋問が行われた。

岡田教授は「妄想性障害があり、犯行の動機を形成している」と、前回の和田医師とは異なる見解を示した。

しかし、妄想性障害は重症であってもただちに責任能力が無い。と決まる訳ではないと証言した。

また、一般論として妄想性障害では「殺人は犯罪」という認識は、損なわれない。

ただし、教科書的にも被害妄想というのはイライラしやすい要因になり得る。

犯行の動機に影響はしているものの、犯行に直接的な影響を及ぼしていないと見解を示した。
前回の和田医師が言った「犯行への影響は、ほとんどない」とは違った見解である。

鑑定の際、青葉被告が「裁判は極刑以外ありえない。早く終わらせたい」と語っていたと明かした。

第5回公判で被告は、眠れなかった。悪いと分かっているので、極力人を避けていた。などを語っている。
また、犯行前に10分間ほど現場近くの路地で頭を抱えて実行を逡巡した。と明かしている。

この事から、良心の呵責はあったと考えられる。

検察側はこの経緯を裁判官に投げかけた。
一方、弁護側は責任能力の有無についての明確な主張はなし。慎重な判断を求めた。

筆者のつぶやき

決定的かどうかは言い難いが、犯行時の状態は判断能力があるものと考えられる。

以前の公判で語った事も踏まえると、責任能力はあると言えるだろう。

あとは何の罪状が認定されるか、である。

検察は

  • 殺人

  • 殺人未遂

  • 建造物侵入

  • 現住建造物等放火

  • 銃砲刀剣類所持等取締法

以上で告訴している。

このうち極刑が指定されているのは殺人と現住建造物等放火。
結果的に人を殺めているが、被告は京都アニメーションを対象としているので、殺人が認められるかが微妙な所だ。

殺人罪が認められた場合は、ほぼ確実に死刑は免れないだろう。
放火のみで死刑が確定しているのは戦後で1件しかないそうだ。

次回は10月30日。第15回公判が行われる。

参考

第15回公判

第15回の公判では14回に続き、精神鑑定をした和田医師と岡田教授に対し、尋問が行われた。

裁判の最大の争点となる、責任能力の有無について。

岡田教授はこう語った。

  • 盗作の部分については、妄想が関わっている

  • しかし犯行の詳細を決めるのに妄想は関係ない

裁判官から「妄想性障害の場合、逡巡する人はよく居るのか」
との問いに和田医師は

「いくつかの場合がある。例えば『隣の人を殺さないと自分の家族が何らかの組織に殺される』という妄想であれば、躊躇しないかもしれない。ただ、状況認識に問題があっても、考える余地があれば逡巡は見られる」

これに岡田教授は同意すると答える。

闇の人物ナンバー2についても通常心理に近いと言える。
和田医師は、そう答えた。

裁判長は「岡田氏の鑑定主文について。妄想が動機を形成したというのは、犯行の意思決定とイコールか」
このように質問した。

岡田教授「妄想は、動機形成に影響している。ただ、複雑な形で妄想が関係している」
と答えた。

今回のポイントとなる部分は、恐らくココ

「妄想の影響は動機まで。彼(被告)はこれまで何か問題が起こる度に、関係を絶ってきた。でも京アニの場合は逃げたとしても『著作権を譲渡しても盗作してくる』と妄想。『だから、やるしかない』となる。盗作の部分は妄想が関わっている」

岡田教授の証言である。

筆者のつぶやき

あくまでも盗作された事については、被告の妄想によるもの。
それによる憎悪や怒りによって犯行に及んだ事は、自らの意思である。

このように私は感じ取った。

ただ、個人的にはグレー。
裁判員として参加していたら、まだ答えを出しきれない。

あくまでも記事ソースなので、裁判の中身全てを把握しているわけではないが、判断しかねる。

なぜかと言うと、妄想が妄想を膨らませて、自ら追い込んでしまう事もあるからだ。
その結果、犯行に至る事も考えられる。

参考記事


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