令和2年(わ)第1282号 京都アニメーション事件のまとめ(公判6回目~10回目)

この記事では、第6回公判からの内容をまとめる。

5回までに弁護人からの被告人質問が終わり、次は検察からの被告人質問が始まる。


第6回公判

産経より引用

《弁護側の被告人質問で被告は「(闇の人物で)ナンバー2と呼ばれる人」から監視され、「京アニ大賞」で自身の応募小説が落選するよう圧力をかけられたとの持論を展開した》

検察官「ナンバー2とは完全に敵対していたわけではない」
被告「敵対した部分もしてない部分もあった。(例えるなら)右手で握手をしながら、左手で殴りあう部分も」
検察官「火を付けたのは京アニに腹が立ったから」
被告「そうなります」
検察官「(京アニ大賞に)落選させられた上に(応募小説のアイデアを)パクられたから」
被告「そうなります」
検察官「落選はナンバー2の指示」
被告「それもあります」
検察官「パクられたことは、京アニや(被告が恋愛関係にあると妄想していた同社所属の)女性監督がしたこと」
被告「そうなります」
検察官「ナンバー2はパクられたことに関わっていないでしょう」

《被告は、有名なアニメ映画でもアイデアの盗用があり、ナンバー2が関わっていると訴える》

検察官「事件直前のことは重要なので、確認のため聞いていきます。まず、京都に行く前から放火をしようと考えていた」
被告「はい」
検察官「ガソリンを使おうと考えた理由は」
被告「昔、武富士でガソリンが使われる事件がありました。それを見て」

《平成13年、青森県の消費者金融「武富士弘前支店」でガソリンがまかれ、社員5人が焼死、4人が重傷を負う強盗殺人放火事件が起きている》

検察官「定時制高校時代、ガソリンスタンドでバイトしていた。引火点の知識は」
被告「簡易的な知識は聞いたことがありました」
検察官「ガソリンの携行缶などは、京都で調達すると事前に考えていた」
被告「そうなります」
検察官「包丁6本を埼玉から持ってきた。(京アニ放火事件1カ月前の)6月に大宮駅での大量殺人で使用しようと買ったもの」
被告「そうなります」
検察官「目的は」
被告「(平成20年の秋葉原無差別殺傷事件への)思いが多少ありました。ガソリンをまいた後、(何者かが)襲ってきたり、止めに入ったりされたときに持ち出そうと思っていた節がある」
検察官「秋葉原事件への思いとは」
被告「(加藤智大元死刑囚の境遇が)類似点じゃないですけど、ひとごとに思えなかった」
検察官「共感はいつから」
被告「(事件発生時に)何とかしないと自分もこんな感じになってしまうのではと思った」

《質問は令和元年7月15日に戻る。被告は、京アニのグッズショップにも立ち寄っていた》

検察官「何を感じた」
被告「自分が落ちることで京アニが上っていく。コントラストというか、光と影を感じた記憶があります」
検察官「なぜ第1スタジオを狙った」
被告「人が多そうだからという漠然した理由です」
検察官「京アニのショップで放火しなかったのはなぜ」
被告「お客さんとかいる場所なので。自分の恨みの対象は京アニ」
検察官「客は関係ないから巻き込まないでおこうと」
被告「そういうことになります」

《同年7月16日、被告は第1スタジオを下見した上、ホームセンターの場所も確認。しかし、ホームセンターでガソリンの携行缶などを購入したのは翌17日だった》

検察官「なぜ」
被告「ガソリンの携行缶があると中身がなくても電車に乗ったりホテルに泊まったりするのは難しい。もしくは警察に声をかけられた場合、逮捕も不可能ではなくなる」
検察官「17日の購入時、店員に売り場を尋ねることはしなかった」
被告「もし警察に不審者がいると通報されたら、計画が破綻する可能性があると考えて聞かなかった」
検察官「何のためにハンマーを買った」
被告「(第1スタジオの)入り口が開いていなかったら、割って侵入しようと」
検察官「午前10時半に放火を実行した理由は」
被告「みんなが座って作業しており、止めに入る人間がいないだろうと」
検察官「第1スタジオには(被告が訴える)盗作に全く関わっていない人もいるかもしれない」
被告「アニメは一人で完結できるものではない。一つ一つのシーンは何人かの手がかかっており、何人かで盗作のシーンを作ったという思いがあったので」
検察官「事務やマネジャーなど色々な仕事をする人がいる。その人たちを巻き込むことにならないのか」
被告「そういうものに関わった人も同じだという思いがあった」
検察官「盗作に関わった人も、そうでない人にも責任があると」
被告「そうです」
検察官「もう少し詳しく」
被告「やはり完全に(盗作を)知らないということはないのではという思いがあった。マネジャーもそれ(盗作)をやめようとか思う人がいなかったのかと悔しい思いがあったので全員同じように」
検察官「盗作への関与の度合いに強弱があっても同じ」
被告「はい」
検察官「どうしてそう考えるように」
被告「(コンビニのアルバイトや派遣社員として工場で働いた経験を基に、問題が発生すれば)最終的な手段は仕返ししかない。完全に力でねじ伏せて黙らせる」

《弁護側の被告人質問によると、被告は放火直前に犯行を実行するか逡巡(しゅんじゅん)。自身の半生を振り返った末、「どうしても許せなかったのが京アニ」と犯行を決意した》

検察官「どんな半生」
被告「京アニは光の階段を登っているようにみえ、(対して)自分の半生はあまりにも暗い」
検察官「迷いは」
被告「私のような悪党でも小さな良心があり良いのか悪いのか考える部分もある。(事件までの)20年間はどうしても暗い。ここまできたらやろうと」

《6日の証拠調べでは、放火後、被告が救急搬送される前に警察官とやりとりした動画の音声が再生された。その中には、「お前らが知っているだろ」と叫ぶ場面があった》

検察官「警察官を『公安部』と言っていたが、生死をさまよう中で冷静な思考ができたのか」
被告「直観のようなものと思っていただきたい」
検察官「(前科のコンビニ強盗で服役後から)『監視されている』との発言が法廷であったが、起訴前の捜査段階では一度も話していない」
被告「はい」
検察官「取り調べや(精神)鑑定人から公安部について質問はありましたね」
被告「ありました」
検察官「『公安は作り話だ』と答えていましたね」
被告「はい。答えていました」
検察官「(法廷での発言によると)作り話ではない」
被告「そうなります」
検察官「連日、発言が報道されているが、(闇の人物である)ナンバー2や公安について話して大丈夫なのか」
被告「実は尻込みをしていた。彼らなら(自分の)存在を闇に葬るのは造作もない。殺す気なら自分の犯罪もとっくに葬られている。ちゃんと話すには、こういうところから話すしかない。真実を話そうと」
検察官「どうして多くの人を殺そうと」
被告「(平成20年の秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大元死刑囚が)どこかで頭の中にあった」
検察官「秋葉原の事件と同じようにしたかった」
被告「そう考えてもらって間違いない」
検察官「(ガソリンの携行缶などを購入した)ホームセンターへの道を尋ねるために入ったコンビニでジュースを買った。なぜ」
被告「自分がコンビニ店員をやっていた経験から、何かを買った拍子で尋ねるほうが自然な流れ(だと思った)。強く印象に残ることだけは避けたかった」
検察官「なぜ」
被告「そういうところから計画が破綻する可能性も考えていた」
検察官「(事件直前の逡巡が)十数分となると、『よし、やろう』という感じではない」
被告「そんな単純に『やろっか』で済む話ではない。自分のような悪党でも完全に良心がないわけではない。良心の呵責(かしゃく)を抱えていた部分はある」

《被告が自身の小説のアイデアを盗用されたと主張する京アニ作品の1つが「「ツルネ―風舞高校弓道部―」》

検察官「ツルネを見たのは平成30年11月。その時にガソリン放火を考えた」
被告「頭の中によぎった」
検察官「(放火するのは)京アニで」
被告「そうなります」

《このころインターネットの匿名掲示板で、「京アニに裏切られた」などと書き込んでいた》

検察官「『裏切られた』とは」
被告「(京アニ大賞で応募作品を)落とされた」
検察官「放火殺人は無差別テロと考えていた」
被告「そう捉えてもらって間違いない」
検察官「書き込み以降(放火殺人のことを)全く考えなくなったことはあるか」
被告「頭の片隅に残り続けた」
検察官「約8カ月間、頭の中に放火殺人があった」
被告「逆に捉えると、8カ月しか我慢できなかった」
検察官「平成31年3月までは(訪問看護の)看護師が来ていた。実行しなかったことと関係は」
被告「ある。(前科の)下着泥棒、コンビニ強盗、今回の件も人とのつながりが完全になくなったときに犯罪に走る」
検察官「(放火事件の1カ月前に)大宮駅で無差別殺傷事件を起こそうとしたのはなぜ」
被告「その時点では、京アニでの放火は不可能と考えていた。ガソリンの携行缶を持っていれば、通報される。その点がクリアできないと踏んでいた。(大宮駅での事件をやめた理由は)本当に殺したいのは誰だったのかとなった。失敗しても構わないから京都まできた」
検察官「あなたの話では複数の会社から小説を盗用されている。(京アニ以外への)受け止めは」
被告「複数の会社からパクられるとなると、泣き寝入りするしかなかった」
検察官「復讐(ふくしゅう)は考えなかった」
被告「そうなります」
検察官「なぜ京アニが攻撃対象に」
被告「(京アニ大賞で)落とされたし、(盗用されたのが)京アニは1つだけで終わらなかった。恨みつらみの度合いは違う」

次回の期日は19日。検察側の質問が続く予定だ。

第7回公判

被告人質問の続き。検察側の質問。

検察は小説を執筆した経緯を改めて尋ねる。

被告人は涼宮ハルヒの憂鬱(京都アニメーション制作のアニメ)を観て、さらに文庫本を買い、読んだそうだ。

それから小説を自分でも書こうとし、試行錯誤する。

7年かけて完成した小説である。

応募した時は「これ以上エネルギーをかけられない」と感じていたそうだ。

しかし結果は落選。

被告人はショックを受けたのと、京都アニメーションに対する怒りも湧いた。

そして小説家を諦め、ネタ帳を燃やした。
被告人にとって小説は一筋の希望だったようだ。

ここで、幼少期の事へ話が移る。

父からの日常的な虐待はあったが、成長するにつれて体罰は止んだ。
しかし、親子関係が修復することは無かった。

被告人は「やられたら、やり返すというか・・・明確に態度を示さないといけないと思っていた」と証言した。

コンビニ強盗事件の逮捕後、精神状態を調べる簡易鑑定は受けている。
その時は家族をガソリンで殺そうと考えていたそうだ。
無差別事件を起こそうともしていたが、小説に思いがあって、それが最後の望みだったようだ。

そして、放火事件の直前に移る。

被告人は京都に来てからの公安の監視はなかったと言っている。
(妄想の話)

監視されていたら犯行はできなかった、と言っている。
また、タイミングを意識して全員が席に座っている時間を考えたそうだ。

塀の中に入るであろう、そんな先の事は考えていなかった。

被告は「火を付けることまでは行き過ぎたと思っている。30人以上が亡くなったことをかんがみても、いくら何でも小説一つでそこまでしなきゃならないのかというのが正直な気持ち」と言った。

ただ、これは公判後の感情である。

犯行時においては「作品を盗ったことにおいて全員同じ。全員同罪だ」
このように考えていたようだ。

検察は裁判官や裁判員に対して、被告の計画性や当時の心理状況を説明したかったものと考えられる。

9月20日の第7回公判は、ここで終了。
再び検察からの質問。さらに遺族からの質問が行われる予定だ。

参考記事

第8回公判

再び、被告人質問。検察側からの質問が続いた。

捜査の段階で公安に目を付けられたなどの話をしなかった理由は、アンダーグラウンドな話なのでこのタイミングで言うのは自分の利益にならないと判断したためである。

遺族らの被告人質問が始まる。

被告人は相談事をグダグダと時間に費やすくらいなら、自分で決めて解決するそうだ。

建物の構造までは把握しておらず、突入したらガソリンをぶちまけ、火を付けて、すぐ出るつもりだったようだ。

被告人は「誰か」をターゲットにしたのではなく、京都アニメーション全体を狙うという認識だった。

被害者の親族は「対象者には家族や子供が居るという事は知っていたか」と問う。
被告人は、そこまで考えて居なかった。

建物の中に居る人は、どうなっても良い。死んでもいいと考えていた。

しかし京都アニメーションと共に自分も焼け死ぬ気はなかったようだ。


京都アニメーションの「けいおん!」は録画していて、何度も観ていた。
もちろんファンであったからだ。

勝手に恋愛感情を抱いていた女性監督に対しては、個人的に妬ましく思っていたようだ。
その他スタッフに対する個人的なものは関係なく、京都アニメーション全体に対する怨恨から実行に至った。


現場には事件前月の6月に第1スタジオに配属されたばかりで、盗作だと主張する制作に全く関わっていない人も居た。
そういう社員も居る事は想定してなかった、と青葉被告は喋った。

被害者の事は全く考えてなかったのか?
という問いに対して、自分の10年間の事で一杯で、被害者の事まで頭が回らなかったと言う。

そこで被告は「逆に聞くが、パクられたという時に何か考えたのか」
と反論をする。

裁判長からは質問する立場でないと言われるが、さらに言葉を発する。

「『レイプ魔』と呼ばれ、そのことに対して京アニは、したことには何も感じないのか。被害者という立場だけ述べて、良心の呵責はなかったということでよろしいでしょうか」

被告人からすれば京都アニメーションは、他者のネタをパクって金を稼いでいる会社。
そんな事を知らずして働いている時点で同罪だと言う。


被告は、自分の中では最悪の事態を防ごうとする努力はしたつもりだったようだ。

大賞を取るだろう根拠は、掲示板でのコメントだったらしい。
なので「作品のレベルが達してない」とは思わなかったようだ。


秋葉原の事件で死刑となった加藤に対しては、生い立ちについて共感をしていた。

掲示板「2ちゃんねる」に現れた女性監督は、なりすましだと思わなかったのか?
このような問いに対しては、煽りに対する態度がそれっぽかったので間違いない、と主張した。

次回の公判第9回は9月25日に行われる予定だ。
被告人質問が行われる。

参考記事

第9回公判

この公判では被告人質問で、明らかにされた事の内容を確認する。

まずは弁護人から。

前科のコンビニ強盗事件で服役していた時にみた「けいおん!」に対しては、「似た事を考える人が居るんだ」と言う程度の認識だったようだ。

Free!に対しても同じくらい。

だが、ツルネを見た時はパクっていると考えた。

小説のデータは色々な場所に保存していたから、抜くことはできる。このように語った。


事件当日、ガソリンの缶の数、包丁の数。「死ね」と発言した記憶。
今の記憶ではハッキリしていないと。

これまでに詳細に説明したのに、一転して「記憶がない」などと言い出した。


検察の質問に変わる。
京都市内に宿泊したホテルで隣の部屋からドンドンと音がしたのは・・・?

当時は公安のものだと思っていたそうだ。

今は、何かしらのメッセージだと。

公安が監視していようと止めるつもりはなかった。


事件を起こした時の心境は、やけくそという気持ちだったと思う。
このように被告は語った。

今は「やり過ぎではなかったかと思う」と。

人数に対してなのか、放火の事か。この質問に対しては
「火をつけるということが大勢を巻き込んだので。火をつけるということになるのでは」と答えた。


闇の人物については、確信が無く、ただの勘。

小説盗用に対して、合法的な手続きは考えなかったようだ。
過去、誰かに何かを言って解決されたことがなかったからだ。

放火を選択した理由は、自分としての最終手段だと思ったから。

また、家族とは縁を切り、社会的立場も無い。
そんな自分だから、最終的には歯止めになるものがなかった。

京都アニメーションへの恨みは今でもあるのか、との問いに。
「何度となく人に恨みを抱いてきたが、実際に命までとるところまでいくと、そんな軽いものじゃない。もう少し『やってやった』という感情が生まれると思ったが…。悩むことのほうがある」と答えた。

とある裁判員は、被告が「知らぬことは同罪だ」と言った事に対して
「従業員の方がそれぞれどんな業務をしていたか被告は知ろうとはしなかったのか」と問う。
被告は30秒ほど考えた末に「知ろうとしなかったかもしれません」と言った。

それもまた罪ではないのか、と言うと、至らなかった。努力が必要だった。と答えた。


弁護士と接見して、裁判を有利に進めようとしているように見えたのは私だけだろうか。
穿った見方かもしれない。
2017年に発生した殺傷事件は、心神喪失により無罪判決が出て、検察が控訴。
つい先日、大阪高裁で地裁の結審を支持する判断を下した。

一部世論だが、心神喪失だろうがやった事の責任は負わすべき。
世間から隔離するべきだ。
被害者家族の心情置いてけぼりだ。
このような声が上がっている。

司法は公正中立であるが故に、時にはこうした”やるせない”判決が出てしまうのも仕方がないのだろうか。
個人的には法改正するべきではないか、とは思う。
どのように?とは結論が出ないが、逃げ得は許せない。

第10回公判

第10回公判では、証人尋問が行われた。

証言に立ったのは被害者の2人。

ガソリン引火による爆発的な火災の恐怖を生々しく語った。

証人の証言によると「被告は死ねと言ったと思う」と発言した。大きな声で。

自動ドアの音がして男の人を見た所から炎に包まれるまでは10~20秒ほどだた。

その被害者は窓を破壊して脱出したようだ。

もう1人は2階の窓から飛び降りたようだ。

被告が火を放った時の証言について検察・弁護人が尋問をした。
主に検察官からの尋問だった。

第10回公判の内容、詳しくは産経ニュースを。


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