診療報酬改定と投資銘柄の話(3)


第1回はこちら。


第2回はこちら。

結構気合を入れた記事になっている(と思う)
一部を除いてあまりうまく行っていないが、時間がある方は是非。

さて、令和6年6月1日から新しい診療報酬が適用されている。
前回取り上げた銘柄たちはどうなっているだろうか、答え合わせも兼ねて取り上げたい。
※以下は令和6年6月30日現在の私見をまとめたものであり、投資行動の推奨ではないことを申し添えたい。


1、ソフトウェア・サービス(年初来+44.4%)

当noteの本命株として紹介していたソフトウェア・サービス。
年初来は+44.4%と、かなりの値上がりを見せている。これだけ買っておけばよかった。
株価好調の要因は二点。
①導入病院への保守料の増額に成功し、受注に頼らずとも利益が出せる構造を作ることに成功した
②米国資産運用大手のフィデリティが買い増したこと
参入障壁が高く利益率の高いビジネスモデルを構築できているため、今後も強気でよいだろう。
最近調整気味なので、買い増しを検討している。

2024年10月期 5月月次売上等に関するお知らせ
受注と売上、どちらも弱い月がない。
売上が伸びているのは保守単価の増によるものでとても美しい。

2、ソフトマックス(年初来+6.5%)

ソフトウェア・サービスと同じく電子カルテ関連として紹介したソフトマックス。
株価が軟調な理由としては、1Qの決算が良くなかったことがあげられる。(計画進捗率2%)
決算が良くないものの、無風だったため一度売ってしまった。

ソフトマックスは月次売上や受注残を公開していないため、投資判断のために、有報B/Sの仕掛品をみていきたい。(以下、単位は千円)

2023年12月期1Qと2024年12月期1Qを比較すると、
仕掛品が267,029→237,107へ減少している。
一方前四半期からの増減で比較すると
2022年12月→2023年1Q 220,868→267,029(+46,161)
2023年12月→2024年1Q   76,822→237,107(+160,285)
となる。
仕掛品をそのまま受注と読み替えると、今期の受注は前年同月比で前年の4倍弱。
一方で受注残そのものは前年同月比で減少という結果になっている。

こう見るとよい気もする。
本当は2Qを待ちたいが、2Qがよければ上げ切ってしまうような気もする。
買いでもよいかもしれない。

3、キャリア(年初来-0.5%)

ほぼ横ばいの同社。
シニアワーカーの看護助手派遣を事業の一角として手掛けている。
診療報酬においては、ベースアップ評価料、看護補助体制充実加算
介護報酬においても、ベースアップ評価料、処遇改善加算と、看護助手・介護士の人件費相当分の加算は多岐にわたっており、国策として処遇改善を図ろうとする動きがみられている。
また、リスキリングに向けた教育事業にも力を入れており、経産省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」にも採択されている。

つまり同社は、経産省から補助金をもらってリスキリングを行った看護助手・介護士を集めて、彼らを医療機関に派遣することで厚労省が定めた診療報酬・介護報酬上の優遇を受けた人件費相当分を稼ぐことができるという神のような公金ビジネスモデルをやっているのだ・・・

それに期待して投資しているし、そのビジネスモデル自体弱いはずがないのだが、コールセンターをはじめとした他事業の不調やコロナ補助金の剥落が痛いらしい。
他にも人材マッチングのプラットフォーム開発などを行っており、少しずつであるが回復基調が見え始めている。一回保留としたい。

4、メドレー(年初来-18.2%)

下げに下げている。
業績は過去最高益を更新しているし、この先の計画も強気にも関わらず下げているのは、おそらく米国展開を図っているのが原因で、その姿が先駆者のエムスリーと重なったからだろう。
エス・エム・エスをはじめとした関連銘柄も弱いため、人材セクターの全体的な流れなのかもしれない。
そんな流れを打破するためか、6/25に厚労省より国際戦略推進本部設立のニュースが出た。
診療報酬の財源も外国で稼いで日本に還元するような感じになるのだろうか。こういった流れが出るのであれば、エムスリー、メドレーあたりは面白いと思う。そういいつつ総合商社しか儲からなかったら悲しい。
同社については判断が難しい、PERPBR等を見て分かる通りかなりの成長が織り込まれているため、増収増益のサイクルが崩れた瞬間にエムスリー化する可能性は大いにある。現状買うのは怖すぎる、保留としたい。

5、ソラスト(年初来-24.4%)

今回の爆損銘柄。
無限に語ろうと思えば語れる銘柄になってしまった。
株主総会に行った時のnoteはこちらにまとめているのでよろしければ。

さて、では今回は同社の株価がなぜ上がらないか、私なりの分析をしていきたいと思う。

〇中期計画の達成に疑問符
 前回記事で触れたとおり、中期計画では2025年度に営業利益100億を目指すとしているものの、2024年度の営業利益は60.5億円を見込んでいる。
 2024年度の計画がかなり保守的だとしても、まさか1年で営業利益が40億伸びることはないだろうし、このままでは計画通りの収益をあげることは難しいだろう。中期計画は見直しも示唆されているため、それを織り込んだ値動きになっている。

〇診療報酬改定の恩恵を受けられていないこと
 診療報酬改定関連銘柄として取り上げた同社だったが、実はほとんど診療報酬改定の恩恵を受けられていない。
 
2/14付の中医協の資料では、事務員は様々な雇用形態があるため課題が多いとされていたが、実際の診療報酬改定においてなんと正職員以外はベースアップ評価料の施設基準の届出対象(賃金改善計画書)から除かれてしまったのだ。
 もう少し詳細に触れると、40歳未満の医師、事務職員等は直接ベースアップ評価料の点数の算出には用いずに別欄に記載することになるのだが、ここに記載することで、人件費相当分の集計が可能になるため今後の診療報酬改定に活かされるものだと考える。一方で派遣・委託職員についての記載はないため、このままではいつまでたっても彼らの賃上げ分は診療報酬改定でオンされることはない。
 初診料、再診料の増額分で派遣・委託職員の分も契約単価を上げる形にしなくてはならないのだが、40歳未満の医師・事務職員とは異なり、診療報酬上のインセンティブが一切ないため、持ち出しが増えてしまうだけで病院側に値上げに応じるメリットが全くないのだ。
 これがわかった時点で損切りすればよかったのでは?と思った貴方、正解です。
 これらを踏まえて株主総会での質疑で人件費の増への対応策について質問してみたが、あまり良くなかった。
 今聞くとしたらずばり「診療報酬改定は委託職員に恩恵のない改定になってしまったが、今後の改定に向けて社として働きかけは行っているか、行っていれば進捗はどうか」といったことを尋ねたい。
 「骨太の方針」でも医療従事者に対する持続的な賃上げについて触れられている。次は派遣、委託職員の賃上げが診療報酬上においても十分に果たされるよう継続的な働きかけに期待したい。

医療・介護・障害福祉サービスについては、2024年度診療報酬改定で導入されたベース アップ評価料等の仕組みを活用した賃上げを実現するため、賃上げの状況等について実態 を把握しつつ、賃上げに向けた要請を継続するなど、持続的な賃上げに向けた取組を進め る。

経済財政運営と改革の基本方針 2024 ~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~2024_basicpolicies_ja.pdf (cao.go.jp)

投資判断としてはホールドで良いと思う。
散々書いたが、医療事務業界の参入障壁の高さはかなりのものがある。
寡占ゆえに、病院側にメリットは一切ないものの価格交渉がうまく行っているケースも多いのではないか。
FIXERと順天堂大学が医療事務LLMの研究をしているが、LLMに駆逐されるのはもう少し先のように思える。

株主総会で触れられた他社との提携の予定がどのようなものか想像もつかないが、もし仮にメドレーとの提携が実現するのであれば、人材確保の面からも相当なメリットが期待できる。

いち業界人の視点では変わらず「つぶせない会社」だと思うし、LLMがいきなり浸透することがなければ今後も存在感は変わらず残ると思う。
医療業界自体がかなり保守的な業界なので、多分医療事務LLMが浸透するのは他の業種より遅いと思う。
積極的な買い推奨は難しいが、ホールドで良いと思う。


いかがでしょうか。
こんなnoteばかり書いているので、おすすめの株を教えてくださいと聞かれることが増えてきた。
上がる株があれば私が知りたいぐらいだが、あえて人に勧める場合はNTT(9432)とソフトバンク(9434)の単元相当のみにしている。
これらを100株分(ソフトバンクは10分割を控えているため、現状購入する場合は10株分)買う分に大怪我をすることはないだろう。優待も厚めにもらえるので、少額で株主気分を満喫できるのがよい。
もし、今回記事で人に勧められる株は?と聞かれると難しい。
そう考えると、あまりよい投資行動ではないのかもしれない。
人に自信を持ってプレゼンできるような株をいつか探してみたいものである。

ではでは。


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