【書評】苫野一徳『愛』

今回は、日本の哲学者である苫野一徳さんの『愛』という本の紹介をしていきます。「愛とは何か」は哲学者にとって、いや、人類にとっての大きなテーマだと思います。苫野一徳さんは「愛」についてどのように考えているのでしょうか。愛について深く考えてみたい、そんな人におすすめしたい本です。

本書の基本情報

基本情報

タイトル:『愛』
著者:苫野一徳(熊本大学教育学部准教授)
出版社:講談社(講談社現代新書)
価格:本体860円+税
ページ数:221p
ISBN:978-4-06-517047-2

本の帯

「ほんとう」の愛とは?
それは意志。
それは育て上げるもの。
追いつめて、考え抜いて、書き切った――
著者20年の思索の結論!
哲学が解き明かした「ほんとう」の愛のすがた

引用元:『愛』本の帯

おすすめポイント

「本質観取」的視点から見えた「ほんとうの愛」

本質観取とは経験のありのままを観て取る方法なのではなく、われわれが経験を反省できるその可能性の原理を確定するのです。そこから、われわれの生にとって必要なものを適切に意識化する技術であり、またそれを、相互了解が可能性であるような仕方で意識化する技術です。
引用元:http://www.phenomenology-japan.com/honntai.htm#:~:text=まず、本質観取(%EF%BC%9D,%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E6%A7%8B%E9%80%A0%E3%82%92%E7%A2%BA%E3%81%8B%E3%82%81%E3%82%8B%E3%80%82

本質観取…なかなか奥深そうな考え方です。
苫野さんは「人類愛」を感じたことがあり、それが本当の愛だと思い込んでいたと話します。しかし、人類愛は”体験”で語ることはできても、確かめ可能な普遍性を探求する哲学の立場から言うと、虚構と言うほかないのではないだろうか、と考え始めます。恍惚な体験ではなく、普遍的で確かめるものができるものから愛を探ろうと考えたようで、それが本質観取なのだろうと思います。
苫野さんは「合一感情」と「分離的尊重」に愛を見出します。誰かと一つになりたい、一つになれているような感覚がある「合一感情」。また、合一でありながら、絶対的な他者でもあり尊重すべきだとする「分離的尊重」。愛はその合一感情と分離的尊重の弁証法なのだと主張します。でも、これは確かに愛ではあるのだけれど、”ほんとうの”愛ではないのではないか…と更に思考を深めていきます。その結果、苫野さん自身が導き出した”ほんとうの愛”が「存在意味の合一」と「絶対分離的尊重」の弁証法。なるほど、合一感情と分離的尊重から更に高まったような気がします。この本を読んで、これも一つの愛と言ってもいいような、そんな気持ちになりました。
ただ、これを”本質””ほんとうの愛”と断言してしまうのは、個人的には違うのではないかと思っています。まだまだ、私たちが確認できていない普遍的な愛と言うものがあるような気がしています。苫野さんの主張を踏まえて、読者の皆さんには更に愛とは何かについて深めてほしいと思いました。

本当の愛について考えた上で人類愛は可能なのか検討している。

前述したように、苫野さんは「人類愛」を感じたことからほんとうの愛について考え始めました。そこで苫野さん自身が導き出した一つの答えが以下の通りです。

わたしがわたしの存在意味を全人類の存在において確信しているとするならば、そして、しかし同時に、その全人類を”このわたし”とは絶対的に分離された存在として尊重しているならば、またさらに、この全人類のために、わたしが”このわたし”を何らかの仕方で捧げうると確信しているならば……。
それは確かに、人類への”真の愛”と呼ぶべきものと言えはしないか?

引用元:苫野一徳『愛』p.193

個人的には、人類愛にも”ほんとうの愛”はあるのではないかと思っています。ここで言われている”何らかの仕方”を探すとともに、愛の普遍性について再考する必要があるように感じました。
自分も人類愛を感じたことがありますが、その感覚を説明するのは難しいですし、”ほんとうの愛か”と問われれば、はっきりとそうとは言い切れない…。

まとめ

愛についての深い考察が書かれていて、非常に面白いですし、本質観取という考え方であるがゆえに、納得できる方も多いかもしれません。しかしながら、個人的にはまだまだ”愛”について語りきれていないように思います。いや、そもそも語れるようなものではないのかもしれませんが。
「愛は意志である」というのは、アドラーやフロムに通ずるものを感じました。それに関しては自分もある程度同意しています。
哲学の本なので、少々難しく、うまく語れませんでしたが、哲学の本にしては非常に読みやすいので哲学の入門としてもいいかもしれません。
この本を読んで、愛について自分なりの答えを探してほしいなと思います。

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