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#10 私のやる気スイッチ/泖

【私たちの往復書簡 #10 のやりとり】
月曜日:及川恵子〈世捨て人にはなりたくない〉

わたしじゃなくて、アイツのせい

こんばんは!

わたしのやる気スイッチは、お化粧してから香水をつけるまでがワンセットになっています。

一昨年までは香水だけでした。好きな香りを纏うと、自分でもスイッチが入るのが分かります。背筋がシャキっとする感じ。格調高い人間になる、みたいな。

そこになぜお化粧も加わったのかというと、友人たちに「もっとお化粧したら良いのに」と助言してもらったからです。

それまではアイメイクもそれほどせず、眉を整え、リップをちょちょいと施すだけでした。ナチュラルメイクが好き、ということではなく、そうするに至った経緯というのもありまして。

大学生のとき、わたしはお化粧が好きでした。アイメイクやリップに色を加えたりするだけで顔が3D化するのが楽しくて、そんな自分の顔も好きだったんです。

ところが、ある日、特に興味もない男の子から「目が合うとなんでも見透かされているような気がする、目が怖い」と言われてしまいました。

気にしなければいいのに、当時のわたしはなんだかフラれた気分になってしまい、勝手に「このアイメイク、ひょっとして強めなのか?」と思い込み、お化粧を見直すことにしました。

インド人とのハーフに間違われたことがあるくらい元々の顔が濃いので、ちょっと手を加えるだけで、その男の子が言う「目が怖い」になってしまうことに悩みまくりました。

そのうち、そんなことに悩んでいるのも面倒になり、さらにお化粧に時間をかけることも面倒になり、いつしかナチュラルすぎるお化粧が一昨年までの定番となっていたのです。

しかし、30歳も近づくにつれ見た目にも気を遣いたいと思うようになったところで、友人たちからのアドバイスもあり、とりあえずお化粧品売り場のスタッフさんにメイクしてもらったら、あら不思議!

わたしがすごく綺麗だったんです!びっくりして舞い上がりました。思わず、親友に「今日、わたし綺麗だから会いに行っていい?」と連絡するほどに。

自分の顔をお化粧で彩ると、なぜか行動的になります。家で仕事中にゴロゴロしたくなっても、「あぁ〜お化粧しちゃってるからもう寝っ転がれないな〜」というお昼寝の砦にもなってくれます。そのうえ大好きな香水をつければ、もう完ぺき。

なら良いのですが。世の中そうは上手くいきませんよね。少しは行動的にはなるものの、怠け者の本質は全く変わらないので、たしかに「がんばるぞ〜」と気合いも入るのですが、気持ちがちょっと前進したにすぎないのです。

お化粧して、香水をつけただけで「今朝は5:30に起きたわよ、あぁ優雅。朝は目玉焼きとウィンナーを焼いて、サラダにはアボカドを散らして、おっと、ナッツも散らしちゃう?今から玄米も炊いちゃおうかしら。搾りたてのオレンジジュースも必要ね。あとコーヒー豆も挽かなくっちゃ〜」なんて『&Premium』的な生活リズムになるはずもなく。

そんなんだから、空想にふけって仕事にも身が入らないことも珍しくありません。むしろ、なんか知らないけど休憩中に仕事が終わってた〜!なんてマジックがあればいいのに、と理想を膨らませながら時間を無駄にしています。お化粧もしてるし、好きな香水もつけてるのにね。やる気スイッチを押してはみるけど、残念ながらそれほど効果はないのです。

当時の、あの男の子に、わたしのお化粧へのプライドや哲学みたいなものを説いていたら何かが変わっていただろうか。いま、わたしのやる気スイッチがポンコツなのも、全部アイツのせいにできたらいいのにな。


追伸。
花沢健吾の『アンダーニンジャ』という漫画が面白いです。明日の午前中は会社を休んで『はりぼて』という映画をみてきます。


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