低予算B級映画らしさが凝縮~映画『食人雪男』~

※ネタバレはありますが、別にこの作品はネタバレされても問題ないと思います。





「想像を絶するスーパー・バイオレンス・モンスター・パニックついに日本上陸!」とか「ヤツは顔面から食う。」とか、仰々しいキャッチコピー。

そして『食人雪男』という、あの有名な封印映画『獣人雪男』をリスペクトしたと思われるタイトル。

これを目にしたとき、どのような印象を抱くでしょうか。

私のなかでは、完全に「B級映画センサー」が振り切れました。

そして心に誓ったのです、これは何をおいても観に行かなければなるまい、と。


ただですね、少しだけ懸念はあったんです。

この『食人雪男』、いかにも「B級映画です!」とアピールするタイトルでありながら、単館系の映画館だけではなく「イオンシネマ」とか「109シネマズ」みたいな、ちょっと大手系でも上映されているんですね。

そのため「実はB級映画の皮を被った、名作なのでは?」という懸念が。

B級映画を観るつもりで名作映画を観せられたら、テンションの持っていきどころに困るんですよね、喜んでいいのか怒るべきなのかわからなくなるので。


しかしその懸念は、比較的冒頭で吹き飛びました。

この映画、はっきりと姿は見せないものの、序盤から雪男が人を殺しまくります。

そして殺される人々の中に、木の幹に頭を何度も打ち付けられて殺される人がいるのですが……。


ちゃんと木の幹に頭をぶつけられず、寸止めまる出しの雪男。

犠牲者の頭から必要以上に噴き出す、大量の血。

にもかかわらず、木の幹にはまったく血が付着する様子がありません。


特に寸止めは、子役でももうちょっとうまいこと見せられるんじゃないか、と思うくらいの酷さでした。

このシーンを観た瞬間、私は「これは明らかにB級映画だ、良かった」と安心したのです。


内容的には「万病に効くという『雪男草』を手に入れるため、研究者率いる調査チームが山奥へ。そこで雪男に殺されまくります」がすべてです。

それ以上もそれ以下もありません。

シンプル・イズ・ベスト。


山奥が舞台のはずなのが、どう見ても「その辺の裏山」みたいな場所をひたすら登場人物たちがウロウロ、他には研究所として、それっぽくセッティングしたゲストハウスみたいなのが出てくるだけです。

低予算感、満載ですね。


ただB級映画にも、2つのタイプがありまして。

低予算でどうしようもないので、開き直ってとことんB級っぽさを追求して仕上げるタイプと、低予算でどうしようもないながら、真面目になんとか面白い映画を作り上げようと努力するタイプです。

もちろんどちらも映画作りとしては真剣ですので、どちらが良い、悪いという問題ではありません。

この『食人雪男』は、後者のタイプ、低予算でどうしようもないながら、なんとかしようと努力しているタイプの映画でした。


一応シナリオに一工夫加えようとしたのか、突然「この近辺は特異点に巻き込まれていて、時空が歪んでいる!」と言い出したり。

雪男は現代の生き物ではなく、先史時代の生き物だそうです。

「実は雪男草が万病に効く薬なのではなくて、雪男自身の血が万病に効くんだ!」と言い出したり。

これらはなんだか深い設定のように思えますが、本当にただそう言い出すだけで、その後の展開には特に何も影響しません。

聞いた瞬間に忘れてもまったく問題がない、無意味なセリフとなっています。


登場人物も微妙な奴らばかり。

まずはこういうパニック映画にありがちな、突然裏切る奴。

「俺は雪男草が目的じゃなくて、雪男を倒すのが目的なんだ!」と言い出して、リーダーの女性科学者を突然裏切って足を撃ち抜いて動けなくするヒドイ奴です。

でも雪男を倒すだけなら、別に仲間を裏切らなくてもよくないですか?

雪男が出たら、みんな結局銃を撃ちまくって倒そうとするんですから、一緒に行動していても雪男を倒すチャンスは十分にあるような気がするんですが。


足を撃ち抜かれた科学者も、その後「傷口を布で縛る」だけの簡単に治療しただけで平気で山道を動き回り、先に行った裏切り者にあっさり追いつくタフネスさ。

裏切り者がますますマヌケに見えてきます。


主人公的な役割の女性キャラもいて、雪男に襲われた際に懐中電灯を使って撃退し「雪男は強い光に弱い!」と判明するのですが、その後の行動ではなぜかその懐中電灯を持たずに動き回る始末。

せっかく雪男を撃退できる有効手段を手に入れたのに、なぜ……?


そもそも、あまり人の入り込まない雪山の奥深く、どこに生えているのかもわからない「雪男草」を探すのに、全員異常に軽装備&夜までに山を下りる予定という考えのなさ。

山を知る人だったら「雪山を舐めるな!」と一喝したくなりたくなるようなダメダメさです。


こんな感じで、登場人物たちに「なんだ、こいつら……」と思わされるだけで、まったく感情移入ができないのです。

そんな奴らが雪がちょっと積もった裏山みたいなところで、ワチャワチャグダグダやっているのですから、B級映画好きの私でもはっきり言って途中で飽きました。


ああ、でも人が殺されるグロシーンだけは、ちょっと力が入っていましたね。

先に話した裏切り者なんか、雪男をやっつけたと思って油断したところを顔面をメリメリ剥がされる、という悲惨な死に方しますし。

あごを掴まれて、そこから顔面破壊された奴もいたかな。

あとは頸動脈を噛み破られたりとか。

そういうのが好きな人なら、この映画の中でも「一瞬の喜び」を得られるでしょう。


いろいろと書いてきましたが、とにかく「別に観なくても、人生になんの悪影響もない映画」です。

そういう映画を「わざわざお金を払って、映画館で人生の貴重な90分を使って観るのが最高の贅沢!」みたいに考えてしまう、悪い癖を持った私みたいな人間以外の人には、とてもオススメはできません。


結局、雪男は人を食べませんしね。

噛みついて殺すことはしますが。

「ヤツは顔面から食う。」なんてキャッチコピーを付けて、それはどうなのかとは思いますが……きっと映画の画面外では顔面から食ってるのでしょう、うん。


しかしこんな「超B級映画」が、映画館の大画面で楽しめるなんて、良い時代になりました。

配給会社の「TOCANA」さんには、今後もぜひこの路線を貫いて頑張ってもらいたいですね。

次はビッグフット映画の『ドーン・オブ・ザ・ビースト』の公開が11月にあるらしいので、そっちも楽しみにしております。

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