「自分を変えること」の大切さ~映画『異動辞令は音楽隊!』~

※ネタバレとかもあるはずです。






「信念を持って仕事をする」のは大切なことですが、もしその信念が周囲にとって合わないもの、むしろ迷惑に感じるものになってしまっていたとしたら、どうするべきでしょうか。
阿部寛演じる刑事畑30年のベテラン「成瀬司」は「伝説の刑事」と呼ばれる存在ですが、実際には「捜査にはとにかく足が重要」「事件解決のためには手段は選ばない」という考えと、周囲との協調を取らない姿勢から煙たがられている存在です。
しかもパワハラ的な言動が見られる、という点もあって、現代的な価値観からすれば「最低」と言われてもおかしくはありません。

ひと昔前だったら、こういう「無頼」な刑事がそういう自分の信念を貫いて事件を解決に導き、スカッとする……という物語が多かったのではないでしょうか。
しかしこの物語はそうではなく、成瀬刑事は「警察音楽隊」に左遷されることになってしまうわけですね。

しかも成瀬刑事、母親の痴呆症に振り回され、離婚した奥さんとの間の娘さんとの関係もイマイチしっくり来ていない、とプライベートもツラい状態。
娘さんは一緒に住んでいるわけでもないのに、祖母の世話のために自宅に来てくれるなど非常に良い子なのですが、仕事で文化祭に行く約束をすっぽかしてしまって嫌われるなど「そりゃ、あんたが悪いよ……」としか言えません。

そんな成瀬刑事が警察音楽隊の一員となって活動していくなかで、少しずつ「自分のやり方が間違っていた」という点に気付き始め、変わっていくところが見どころとなっています。
しかもいきなり「自分が間違っていた」と気付くのではなく、そこにたどり着くまでに大いに悩み、ふてくされ、号泣し……と、非常に「人間臭い」姿をしっかりと見せてくれるのがポイント。
阿部寛の演技でその苦悩をはっきりと描いてくれるため、より成瀬刑事の心情に寄り添う気持ちにさせてくれます。

また変わっていくのが成瀬刑事だけではなく、警察音楽隊自体だ、という点も、物語により深みを与える効果を発揮しているのではないでしょうか。
「好きで音楽隊をやっているわけじゃない」というメンバーもいれば「音楽をやるために警察に入った」というメンバーもいる、そんな意識の差が組織としての警察音楽隊がまとまりを欠く原因となっていました。
それが成瀬刑事が変わっていくにつれて、全員がひとつの組織としてまとまっていくのです。
成瀬刑事が「まったく協調性などを持たない人間」だったことを考えると、その成瀬刑事によって組織がまとまっていく様子を見るだけで「良かった良かった」と思わずうれしくなってしまいます。

音楽のおかげで娘さんとの関係性も修復できたみたいですし、途中で大きな悲劇はあるものの「ハッピーエンド」を納得して見せてくれる映画としては高く評価したいですね。

実際の社会でも、成瀬刑事のように「自分のやり方にこだわる」「周囲と合わせられない」人はいるものです。
そういう人は、そのことを周囲に指摘されると「自分は正しい、周囲が間違っている!」と、より頑なになってしまうケースがあるのが困りものですね。
いっそのこと、成瀬刑事のように「それまでと完全に違う環境」に身を置いてみれば変わるチャンスがあるのかもしれませんが、会社などではそこまで周囲の環境が変わる機会も少ないのが現実です。

「信念を貫く」のも大切ですが、同時に「自分はいつでも変われるチャンスがある」との考えを持ち続けておくのも、大切なのかもしれません。
まあ、そんなことは言われなくてもわかっている人はわかっているものなのですがね。
そのことに気付いてほしい人ほどなかなか気付かない、というのが人間社会の難しいところなわけで。

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