結末がわかっている作品をどう楽しませるか~『ドラキュラ/デメテル号最後の航海』~

※ネタバレありますのでご注意を。






ブラム・ストーカーの書いた小説『吸血鬼ドラキュラ』、そのなかに登場する「デメテル号船長の航海日誌」を映画化する、という、そのコンセプトがすでにマニアックすぎる映画です。
とは言っても『吸血鬼ドラキュラ』は知名度は高いですが、実際に原作を読んでいる人間は少ないかと思われます。
その点では、かなり面白い試みなのではないでしょうか。

『ドラキュラ/デメテル号最後の航海』の良いところは、航海中の船上という言わば密室状態の緊迫感がよく表現されている部分にあります。
最初は「気楽な船旅」のような態度をしていた船員たちが、何が起こっているのかわからない状態に精神的に追い詰められていく様子が、緊迫感を持って描写されています。
この「何かが確実に起こっているけれども、何が起こっているのかわからない」シチュエーションは、劇中とそれを観ている観客の感情がうまくリンクしないと上滑りしてしまう場合があるのが難しいところです。
そこを観客も同調できるように、うまく撮られているな、と感じました。

そこをうまくやっている最大の功績は、ドラキュラをあくまでも「残虐性しかない怪物」として位置付けた部分にあるでしょう。
この『ドラキュラ/デメテル号最後の航海』に登場するドラキュラは、一般的にイメージされるような「紳士的」な部分などまったく持ち合わせていません。
生きているものを見たらすぐに襲い掛かり、喉を食い破って血をすする、人間性の欠片もない怪物です。
見た目も『仮面ライダー』に出てくる「蝙蝠男」みたいで、完全に不気味な怪物ですし。

近年のホラーでは死ぬ確率の低い、子どもでもあっさり死にますしね。
しかも死んだあとで怪物化して、祖父である船長に襲い掛かったうえ太陽の光に焼かれて黒焦げになりながら海に沈む、なかなかハードな展開です。
ヒロイン的な立ち位置の女性も死にます。
なかなか容赦ない展開ですよね。

ただそれを言い出したら、この「デメテル号の乗員は助からない」といった結末は、最初からわかりきっていたようなもので。
だってデメテル号に乗ってドラキュラがロンドンに渡ってきて、小説『吸血鬼ドラキュラ』の世界が展開したわけですから、その船の乗員が無事であるはずがないんですよね。
だから『ドラキュラ/デメテル号最後の航海』の観客は、全員が「助からないんだろうな」と思いながら映画を観ているわけです。

観客全員が盛大なネタバレを最初から食らっている状態で、しっかりと緊迫感を保ちつつ作品を成り立たせるのは、かなり大変だったのではないでしょうか。
そのあたり、かなりうまくできていた映画だと感じました。
題材がマニアックすぎるので、大ヒットはしないだろう点は残念ではありますが。

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