子どもは周囲の大人を見て育つ~映画『サバカン』~

※ガンガンネタバレします。





「子どもたちによる、ひと夏の冒険譚」
こう書くと、似たような物語は非常にたくさんあるように思えるでしょう。
その点、この映画『サバカン』は、まず「一緒に冒険に出掛ける2人の少年が、最初は仲良くもなんともない」関係からスタートするのが珍しいところ。

小学5年生の単なるクラスメイト同士だった久田と竹本が、イルカを見るという目的のために海へと自転車で出かけていきます。
竹本が突然久田を誘うのですが、その理由が「家を見ても笑わなかったから」というのが、もうその時点でちょっと切なさを感じさせるんです。
単なる「ひと夏の冒険譚」ではない、深いものを感じさせますね。

竹本の父親は早くに亡くなっていて、母親がひとりで5人の子どもたちを育てています。
当然、経済状況が良いはずもなく、家もキレイな建物ではありません。
そのせいか、竹本はどこか拗ねたような雰囲気を持っている子どもでもあります。

一方の久田は、けっして裕福な家庭ではないものの、明るい両親と弟と幸せな生活を送っています。
そのぶん、ちょっと甘えん坊と言うか、気が弱いところがあって、そんなふたりの対比も「凸凹コンビ」という感じで、見ていて思わず笑みがこぼれてくることも。
しかしそんな楽しい時間は、突然終わりを迎えてしまいます……。

客観的に見て、竹本の生い立ちはあまり幸福とは言えず、いつ「道を踏み外した」状態になってもおかしくはなかったはずです。
しかし大人になって、しっかりと自立して働いているようで、その点は非常に良かったと素直に言えるでしょう。

それは久田との「サバカン」の思い出もありますが、それ以上に竹本が子ども時代に出会ってきた大人たちの影響があるのではないでしょうか。

ふたりでこっそりイルカを見に出かけるとき、それに気付いても止めずに、自転車の荷台にタオルで簡易座布団まで作って快く送り出した久田の父親。
途中で不良に絡まれたとき、無言で救ってくれた軽トラのお兄さん。
仲良くなったふたりが山で悪さをしたときに、お仕置きするために登場するおじいさん。

こういった、ときには優しく、ときには厳しい大人たちの存在が、竹本の心に刻み込まれていたんだろう、と思えてなりませんでした。
子どもとは、周囲の大人たちの姿を見て成長していくものなのです。
子ども同士の絆だけではなく、さりげなくそういった部分を感じさせてくれたことに大人としてはうれしく思いました。

ただひとつ、苦言を呈すならば……。
紙のパンフレットも売ってほしかったです!

どうも電子書籍版のパンフレットしかないらしく、パンフレット好きとしては非常に残念。
時代的には電子書籍もアリだとは思いますが、パンフレットって映画を思い出しながら、1ページずつめくっていきたいじゃないですか……。
せめてどちらも用意してほしかったところです。

特に「子どもが初めて見る実写映画に」とも言っていたのですから、子どもの思い出になるように実物のパンフレットを買う、という行為は大事だと思うんですよ。
いつかは失くしてしまうものかもしれませんが、映画を見て親にパンフレットを買ってもらうって、子どもにとって非常に思い出深いものです。
将来映画好きに育つように、そういう体験をしてもらうのは大切だと思うんですが……。

まあ、私がどうしても「紙派」なんでそう思ってしまうだけかもしれませんが。
映画自体の出来の良さには関係ないですしね、一応。

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