ヤリすぎ!なくらいが面白い~『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』~

※ネタバレしますよ。








「よくあるフェイクホラードキュメンタリー」
それが実際に鑑賞する前に、この映画『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』に対して抱いていた印象でした。
いかにも「それっぽさ」を感じさせるポスターでしたしね。
まあ、それを言い出したら、ホラー映画なんてほぼすべてフェイクではあるんですが。

ただしこの『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』、単なるフェイクホラードキュメンタリーではありませんでした。
なぜなら多くのフェイクホラードキュメンタリーが「それっぽく」、つまり「本物っぽく」見せるように作られているのに対して、この作品は「フェイクであることを隠さない」、完全にエンタメ方向に振り切った作品だったためです。

そもそもこの映画、スタートからして並みのフェイクホラードキュメンタリーとは違います。
「3人の動画配信者の若者が、幽霊が出るとうわさがある廃墟に侵入する」、これはよくある展開です。
しかしその侵入の手段として「進入禁止用に巻かれている鎖をチェーンカッターでぶった切る」のは、なかなか見られない展開でしょう。

なぜならば、これは立派な犯罪行為であるためです。
つまり作品を「本物っぽく見せる」ためには、わざわざこういった明確な犯罪行為を見せてはいけないわけですね。
(廃墟に侵入すること自体が犯罪行為ではあるんですが、それを言ったらおしまいなのでとりあえず無視します)
その点、この犯罪行為を見せる時点で、明確に「この映画はエンタメですよ」と宣言しているのです。

この「作品がエンタメである」を宣言すると、どういった効果があるのでしょうか。
それは「作中でどんなにとんでもない現象が起こっても、観客はそれを純粋にエンタメとして受け入れてくれる」効果です。

実際、この『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』のなかでは、とんでもない怪奇現象が次々に起こります。
時間と空間が入れ替わったり、超能力のような力で人間がガンガン吹き飛ばされたり、はては「怪奇」のひとつである「赤い女」が味方になって共闘することになったり……。
「コワすぎ!」ではなく「ヤリすぎ!」と言いたくなるくらい、ハチャメチャな展開が続きます。

もしこれが「本物らしく」見せようとするフェイクホラードキュメンタリーだったら、どうしても「こんなわけあるか」とのツッコミを観客としては入れざるを得ません。
理性では「フェイク」とわかっていても、本物として見せられる以上は感情として「いやいやいやいや」と反応してしまうのが、人間というものです。
つまりフェイクドキュメンタリーの作り手側と観る側で「だますか、だまされるか」の関係性が成立するわけですね。

ときには「こんなこと、あるわけないだろう!」と怒ったり、または「どうせだますなら、もっとうまく作ってくれよ」とがっかりしたり。
「だます、だまされる」の関係には、どうしても怒りが伴うものなんですね。

それを「エンタメ」としてはっきりさせてくれれば、どうでしょうか。
どういう現象が起ころうが、どんなに突拍子もない展開になろうが、観客はそれを正面から受け止め、怖がったり笑ったりできるのです。

この『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』は、そういったエンタメとしての出来は良い作品と言えるでしょう。
実際、観客の反応やレビューを見ると「怖かった」より「面白かった」との反応がほとんどのようですし。
私はシリーズ初見でしたが、根強いシリーズファンもいるようですので、作品の在り方としてはかなりアリなのではないでしょうか。

正直、個人的にストーリーはビミョーではありましたけどもね。

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