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#4「大人しさと頼もしさ」 伊藤沙莉

さすがに、こんなにネタに行き詰まると
小腹も空いてくる。なにか頼もうかな。

「すいません、」と僕は店員さんを呼んだ。

「はい?なに?」

「あ、えっと、どれにしよ」

「あの、決まってから呼んで貰えますか!」

「あ、ごめんなさい」


は?混んでねぇだろ!この店!
客、俺含め4組だぞ!ふざけんな!
何だこの女の態度!


僕は思わずネタ帳を放り投げて、
ノートを取りだした。


このノートに妄想を書いている時だけは
嫌な事は一切考えない!
現実逃避は最高で最強だ!
逃げろ!とにかく逃げるんだ!
妄想の世界へ!そう!ぼくの世界へ!
さぁ、今回僕の脳内で
好き放題されるヒロインは!!!


伊藤沙莉!お前だ!

朝から、色んな声が飛び交っている。

でも、僕はこのどれにも入ってない。
僕はただ自分の席に座って授業が始まったら受けて、そして、帰る。

毎日これだけのこと。
僕は裏で「大人しさを実写化したやつ」と
言われてるらしい。

悪口じゃないだけまだマシだと思う。
でも、そんな僕をひとりだけ気にしないやつが居る。

「おはよう!竜秋!」

保育園からの幼なじみ、伊藤沙莉だ。

僕が高校に入って変わったんじゃない。
僕が喋らなくなったわけでも、
沙莉が高校デビューしたわけでもない。

ふたりとも昔からこうなんだ。
僕が『大人しさ』なら
沙莉は『頼もしさ』を実写化したような人だと思う。

こんなに正反対なのに、僕のことを気にかけてくれてるのか
いつも話しかけてくれる。
僕はそれが少しだけ嬉しかった。

「今日も静かだね〜(笑)」

「うっさ、沙莉に関係ないじゃん」

「あんたも話したら面白いんだけどね!
みんな気づいてないもんな〜」

そして、放課後。
僕はひとりになりたくて、公園にいた。


「ねぇ〜!竜秋〜!」

どっから探してきたんだよ。

「また振られた〜」

「今度は誰?」

「3組の村井」

「なんて?」

「え?ドッキリでしょ?びっくりした〜」

「あぁ、なるほどね。」

「このキャラじゃん!?だから告白しても
信じて貰えないのよね?」

「でも俺はそういう所がいいと思うけどね」

「え!竜秋が初めて褒めてくれた!」

「あ、いや、別に今のは…」

「もっと頑張ってみるわ!」

まぁ、元気出たんならいいけどさ。

それからも、沙莉は好きになる度告白し続けた。
そして、その度、僕に慰めを求めに来た。

そんな、沙莉が熱を出したらしい。
あんな元気でも風邪ひくんだな。

僕は、学校の帰りに沙莉の家に寄った。

「沙莉ー?大丈夫?」

「竜秋?来てくれたの…?」

「あ、うん。ごめん遅くなって、本当は
朝、寄ってこうと思ったんだけど遅刻しそうで…」

僕は、買ってきたポカリと薬を沙莉に渡した。

「沙莉が、学校にいなかったら俺、本当に
喋る人いないんだからな(笑)」

沙莉は僕に勢いよく抱きついた。

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