哀しい調べが向かう先には#14

それから
音楽について、オリジナル曲について
話し込みすぎて結局ひかるの家に
泊まることになってしまった。
見覚えのない天井と部屋を包む甘い香りで
そういえば泊まったんだっけと目を覚まして気づく。
ローソファーで眠ったが
有意義な話がたくさんできたおかげか
寝覚めはよかった。
それともひかるが近くにいるから?
すごく気持ちのいい朝だった。
どこからともなく鳥のさえずりが
聞こえてくる。
携帯に目をやるとまだ7時前だった。
二度寝してしまおうかなとも
思ったけどひかるが起きるのを
待とうと思い、ひかるのギターを
小さな音で弾いた。 
光を弾き語りしていた。
すごく小さな声で。
もっと話そうよ突然の明日のことも
テレビ消して私のことだけをみていてよ
のあたりでひかるが起きたようだ。
開口一番
「それ、わかる。すごく共感できる。」
「え?聴いてたの?」
「ギターの音が聴こえてきて、夢の中でどんどんちひろが私から遠ざかっていって、手を振ることもなく、後ろを振り返ることもなく、さよならって言ってくれることもなく、いなくなっちゃった。もう二度と会えないんだってなんとなくわかった。これが最後なんだなって。」
「ただの夢だよ。」と軽く笑った。
「うん、そうだよね。そんなことあるわけないよね。」 
「僕らは」
「私たちは」
と言葉がかぶった。


「え、なに先に言っていいよ?」
「ひかる先に言いなよ。」
としょうもないやりとりを繰り返した。
僕がいうことにした。
「僕等は出会う前も今もこれからどんな未来が待ち受けていても"音楽"で繋がっている。」
「私も似たようなこと言おうとした!だから大丈夫だよねって。」
「僕がたとえ明日死んだってひかるの中に僕が生きていてほしいと願うよ。」と
冗談交じりに言うと
「いますぐとかやだよ!!!冗談でもやめてよ!」とひかるはすこし強めの口調で言った。
「ごめん。」と謝った。
「いいよ。」と返ってきた。

思い出したくもないし
考えたくもないけど
だけど僕の寿命は残り約三年ほど。
寿命の限りは確実に近づいている。
でもこれだけは言えない。
たとえ話でよくあるが口が裂けても。
口が裂けたら話せないだろうな。
それまでになにかしたい。
たくさんの思い出を作りたい。
でも具体的に思いつかない。

「もう、冷える時期だね。何かあったかいもの飲む?」
と提案してくれたので
「ひかるはいつもなに飲んでる?」
と聞くと
「豆乳ココア!」
「じゃあ僕もそれで!」

考えてたことは
そのココアを口にしてしっかりと
味わうとどこかへ消えていた。

僕らは人酔いがするからと
祭りや花火の類に参加しなかった。
遠くで花火の打ち上がる音が
聴こえたりもしたが特にそれについて
話すこともなかった。
気がつけば木枯らしが肌を突き刺し
心を身体を冷やすそんな季節になっていた。

初めて飲んだ豆乳ココアなるものは
そんな季節にはぴったりだった。
美味しかった。
ひかると二人で飲んでるからかなとか
思ったりもした。

「二人で飲むと美味しさが二倍だね!」
ととびきりの笑顔で彼女が言った。

心が綻んだ。それに頷いた。

どんな痛みも悲しみも苦しみも
ふたりなら分けあえる。
僕が全部抱きしめることもできる。
どんな喜びも楽しさも嬉しさも
ふたりなら何倍にもなる。

この肌寒さのなかで
そんなあたたかい気持ちを
彼女のオリジナル曲とこの豆乳ココアが
教えてくれた。

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