雨#16


止まらない。
止まらない。
降りだした雨が急に止むことはないように。
涙が止まらない。

失ってから気付いても遅いんだろう。
想いを伝えるチャンスはきっとあった。


子供の頃、大切にしていたぬいぐるみを
どこかで無くしてしまったとき。

「また、同じもの買ってあげるから泣かないの。」

わがままかもしれない。でもそうじゃない。
同じものならいいわけじゃなくて、あの子がいい。
あの子じゃなきゃ意味がない。
幾度とない夜をひとり泣いた。

その傷は癒えてなかった。時間がただ傷みをどこかへ
隠しただけで心のどこかに眠っていた。

でもこの傷みはきっとそれとは違う。
永遠の命ではない、生を伴ったもので、身体を動悸へ
追いやるなんてものではない。

眠る前、ひとりにしないでと言っていた。
確かに、私に言っていた。
あれはなんのメッセージだったのだろう。
初めて私が求められた気がした。
この時間は日々はずっと続くと思っていた。
どこにもそんな確証はなかった。
誰にも約束された明日なんてないのだ。
もっと根を張って考えれば分かった?

なんの恩返しもできていない。
まだ何もしてない。してもらうことばっかりで、
それに甘えていただけだった。

あの真剣な横顔はもう見れないの?

あの泣き顔は?

あの眩しい笑顔。
寝起きのぐしゃぐしゃの髪。
寝ぼけた顔で、ぼーっと座って歯磨きをしてる姿。
たまにアイロンで伸ばした黒髪。
パスタを茹でている間、薫ってくるあの甘い煙。
ワインについてボトル毎に何か注釈をしている時の
楽しそうな声。
一緒に食べるぺペロンチーノの味。
出来あがった曲をモニターしながら
気分良さそうにそのまま寝ている顔。

もうなんにも、見れないの?
もうなんにも、聴けない?
一緒に写真、一枚も撮ってない。
彼の写真はたまに撮った。
その度、笑顔でしっかり怒られた。

思い出がどれも楽しくて。
悲しい記憶さえも美しい。

きっとここには帰ってこない。
それはなにかを探すように荒れた彼の音の部屋が
伝えている。
あんなに大切にしていた花も倒れて散っている。
その花の名前もまだ聞いてない。

泣いてなんかいられない。
泣いてたって何も変わらない。
大人になったはずの今なら何か出来ることが
あるはず。

彼は今、何を想っている?
足りない脳味噌で描くしかない。

喧嘩したわけじゃない。
歌声に問題があった?

してないけれど、

喧嘩のいいところ、それは仲直りできること。

いつもみたいにまた話したい。

何気ない毎日が何より愛しかった。

いまさら、気づく。
こんなにも、こんなにも私の中に彼が居て
大好きだったって。

こんなにも、こんなにも、愛してる。

そんな人きっともう二度と現れない。
誰が何を言っても、ソウマくん以外あり得ない。
私は諦めたくない。負けたくない。
自分に。

彼がいつか言っていた。
世界で一番、僕が好きなゲームがある。
瑠衣がもしかしたらやることもあるかも知れないから
内容はあんまり言えないけど、そのゲームを子供の時に
やって気付いたことがある。それは、人生に於ける
最期の本当の敵は自分自身だって。
自分が自分を諦めた時に本当の終わりがやってくると。

何歳のとき?
と聞くと、彼は即答した。
七歳だよ、って。

達観しすぎている子供だなと思った。

それ故にいまのソウマくんがあるんだなと
納得もさせられた。

一体、彼をそこまで駆り立てたのは何だったんだろう。
そのゲームは聞いたことのないタイトルだった。

これ以上の記憶のどこかに今の彼に繋がるヒントがあるはず。

騒ぎを大きくする前にまずは自分に問いかけるべきだ。

私のチームに協力を得たり、あのお二人に話すのは
きっとそれからでも遅くない。と願いたい。

この雨が止んだら動こう。
きっと冷静さを欠いている。

止まない雨は無いはず。


それなら、いつかこの空も晴れる。

きっとまたあの笑顔に会える。そう思う私を

私は信じたい。

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