想真くんに贈る言葉#23

「ソウマからメールが。」

トキオさんの
その声で休憩を
とっていた私達は
胸を弾ませた。

なんで俺にじゃなく、いつもトキオなんだー!
と嬉々として
大声をだすシンラさん。

そんなの私だって
思うよ。
なんで私じゃないの?って。

でもトキオさんに
宛てるってことは
結局3人に
向けて送られて
きているということ。

誰に届いたじゃなくて
ここに届いたことが
すごく重要で。

内容の開示を待った。

「んー文面はなんてことない。いつものソウマだ。そしてまあ言わずもがな、音源が張られてきている。」

「ってことは、今のソウマへの糸口は音源一択だな。」

そういうことに
なるんだ。

2人とも何故
何かメッセージを
返そうと思わないの?
もしかしたら
返信が来るかもしれない。
そこに期待して、何かを送るだけ
無駄になるの?
落ち込むことに
なったっていいから試してほしい。
すぐ音源だけに
気持ちを切り替えられるその早さ。

「あの、すいません。お二人はソウマ君のこと、どう考えてますか?」

「どう?どうって?」

「ソウマ君になにか言葉で返事を送ろうとか思わないんですか?」

「思うよ。思うさ。でも音源があるってことは、ソウマはそこで語ろうとしてない。音で自分の今を知ってほしんだろうなーと。
付き合いが長いから
とかじゃなくて、ひとりの音楽で生きてる人間として、そう感じる。言葉で何かを幾ら話したところで、人の記憶にそんな残らない。その人に都合のいいところ、悪いところ、そこばかり残る。
音ならどうか。
聴かせたいところ、
ここぞというところが
伝えやすくなったりする。それを分かってるんだ。あいつも俺たちも。分かってるから、
今は余計に何かを
話すときじゃないんだ。ソウマが話したくなるのを待つしかない。話しやすい状況を作るしかない。」

「でも、、。」

「わかるよ、わかる。でもその為にも今、ルイちゃんはここにいるんじゃないのかな?
音でソウマに何か伝える為に。ソウマが音で伝えようとしてるんだ。俺たちも音で応える。それしかないだろ。かたや、英語。かたや、日本語。これじゃ会話は成り立たない。同じ言葉で話さないとさ。みんな知れずとしてるそれをするだけだよ。」

言われて何も言えなかった。

その通りだと思った。

シンラさんたちも
考えを巡らせた上での
行動だってことくらい、私が一番分からなくちゃいけないはずなのに。

ソウマ君のことを
誰より何より知りたいと思う私。

その私が
何にも分かっていなかった。

ミュージシャンじゃないから。
付き合いが浅いから。言い訳はそこら中に転がっている。

知りたいと思う気持ちは理解しようとする気持ちと一緒じゃなくちゃいけないのに。

噛んで味わおうとするその前に
分からない、理解できない、そんな気持ちが前に出てきてしまう。

身体はそれ以上を
受け付けてくれなくなる。

「ソウマの今の連絡先、教えましょうか?」

そうトキオさんは
言ってくれたけど、
私は首を横に振った。

「もし、知りたくなったら言ってください。
いつでも教えます。
でも
この状況が続く間に
ソウマからそれが返ってくるか、までは
保証できません。」

言わんとすることは
言われる前にわかっていた。

いつまでも
返ってこないかもしれない連絡を
待ち続けて居られるほど
出来た人間じゃない。

連絡はとりたい。
できることなら。
でも、連絡は
まだ取れない何かが
そこにある。
私が何ヶ月も
事件に追われている時。
プライベートも
プライベートな連絡が
きていて、
返していたかどうか。
返していない。

その人を形作ると
言えるほどの何か。
普通の人の感覚では
理解できない何か。

ソウマ君と私達を別つなにか。
彼はどうしてかいつも瞳に孤独を
湛えている。
どこからそれは来るのか。
ラブ君の件?流されたのが私だと
彼は知らない。
ここ?ここに何かある?

「すいません。トキオさん、やっぱりソウマ君の連絡先教えてください。」

「ああ、うん。今送る。」

届いた彼のメールアドレス。
でも何を送ろう。

思いつくままに文字を連ねていく。

”ソウマ君。ソウマ君に話していないことがあります。
あの日を覚えていますか?
ラブ君が亡くなったあの日。原因を作ったのは私なんです。
あの日、大きな岩に登り、川の流れる音に耳を傾けていて、目を閉じていました。しばらくそうしているうちに、気が緩んで、川に落ちてしまいました。泳いだこともないので、川の流れに流されるがままで。もう無理だ、と意識を失いかけている最中、助けてくれたんです。ラブ君がこんな私を。そこに来てくれていたソウマ君とラブ君。二人がいなかったら、私は今日息をしていないと思います。ギリギリのタイミングでした。いくら自分を憎んでも恨んでも、ラブ君が帰ってこないのは理解していました。でも、頭にいくらその情報を送っても、心まで到達しません。心はどうして、なんで、いやだ、繰り返しそう叫ぶばかりでした。だんだん生気を取り戻してきて、その分頑張って生きて行かなくちゃと思いました。でもそれから私には怖いものができてしまいました。それはあったはずのものや居てくれたはずの人達が、忽然として消えてしまうことです。まるで初めからそこに無かったかのように。
どこへ行ったの?どこに居るの?
なんて言葉は宙に消えてしまうのです。
もう散ってしまったと知らずに、目の前の桜がまだこれから咲くのかと待っているような、馬鹿な私でした。
時の流れは残酷で、もう走っても、泳いでもどんなにそこに懸命でも、追いつけなくて。
それはあの日に分かりました。
確かにそこのどこかに居たはずなのに
まるで居なかったかのように振る舞える
人たち。もう、話しかける隙もどこにもなかった。幼い私でも感じ取れるほどのそういったオーラが漂っていて。
久々に背負ったランドセルは学校へ向かう道のりはあんなに弾んでたのに。
帰りはとてもとても重くて。
どうしようもないくらいに、重くて
捨てたくなるほどの重さで。
私を呼ぶ、無邪気な友達の声。作られていない笑顔。消しゴム落としてるよと
拾ってくれたあの子も。いつも新品のように尖った鉛筆を貸してくれたあの子も。帰り道、突然の雨に降られて、廃屋の下にいた私に傘を貸してくれたあの子も。思い出しても、思い出しても、ついそのしがた、教室にいた人達とはもう重ならなかったのです。幼い私たちの数年という時間は他人という距離まで人と人を隔てるのに十分な月日でした。
暗い話、ごめんなさい。
ソウマ君も似たような形になってしまいました。
どこか、私に悪いところがあったのかもしれません。何万光年先から届く星々の光はいつ見えなくなってもおかしくなくて。だから居たんじゃなくて居てくれたんですね。虹のように煌めいていて、星のように瞬いていた。
もちろん人生の終わりなら飲み込めなくても受け入れるしかないかもしれません。世界の終わりが来たならもうそれは
仕方ないのかもしれません。でもそうじゃない。まだどこかにソウマ君はいる。
元気なのかも、どこにいるのかもわからない。でも、そんなあなたに想いを馳せて歌っています。鳴らしています。今、思いつく私にできることは、あなたの代役をあなた以上のパーフォマンスを以って努めること。務め上げて、認められること。あなたには、あなたなりの思いがあって行動していて、私たちに向けて音を発信してきている。それならきちんと
それを受け取りましたよ、という表明を
返さなくちゃとおもっています。
目には目を歯には歯を。音には音で。
なんとなくの空返事じゃだめだとおもっています。晴れの日も、雨の日も、どんな時も。この声が嗄れても叫ぶままに
音を鳴らして、空に響かせて、あの花火を散らして、あの雪も融かして。
またいつか会って話せたらと思っています。またいつかみたいにワインを飲みながらソウマ君の燻す香りに包まれて。
あなたが今日も笑っていることを信じています。そんなこと言っておきながら、英語でとは言ってもプレイしている私たちの気持ちに、呼応するほどの影響をそんな簡単に海外に及ぼすことができるわけがなかったな、と痛感する日々です。
邦楽と洋楽の壁は大きくて。
でも私たちにしかできない音楽が必ずあるはずだと思っています。
そう思いたい、願いたいんだよ。
でもどこに行っても井の中の蛙でした。
こんなことを思ってしまう時があります。私がいるから。私さえいなければ。
ここに立ってるのが私じゃなく、ソウマ君なら受け入れられたのかな?って。
私がソウマ君のいない今を受け入れられずにいるように、ソウマ君不在のMoon Raverだから受け入れられないのかな?って。そう思いながらどんどん自信をなくしていく私の歌声に誰も耳を傾けてくれるはずもないよね。
どんどん卑屈になっていく自分がやりきれないです。歩けども、果てがどこにあるのか、何処を目指しているのか、もうもはや分からなくなる時があります。
緊張のあまり歌えなくなったり、バックで嗚咽が止まらなくてステージに立てないこともありました。もう人前にでるのが怖かったりします。限界を感じています。たすけて。たすけて。どんな時も
こんな時ほどソウマ君の名前を呼んでしまう。心の中で何度も何度も。たすけてもらったあの日からずっとずっと私の
ヒーローです。辛い時。苦しい時。
自然と名前を呼んでしまう。あの日救われることがなかったら、私はここにいない。でもいつまでも甘えてるわけにはいかないと思っています。ソウマ君は知らないところで苦しんでいた。きっと泣いていた。誰にも何にも言えずに。何が理由なのか、わからないけど、できたら話してほしい。いつも一方通行でワガママな私を許してほしい。帰ってきてほしい。いつもどこかに消えちゃいそうだったあなたの手を強く強く握って、今度は絶対に離さない。この命が消えるその日まで、護るから。あなたより長生きするから。あなたが作った音楽は私のDNAにまで入り込んできて、染み込んでいます。すごく不思議な感覚です。初めから知っていたような気がするんです。会いたい。会いたくてどうしようもないよ。何にも気づけなかった私を責めていいから、怒ってもいいから、戻ってきてほしいです。気づけなかった私は自らあなたから、離れたようなものだと思っています。そして、そういえば、あなたの家に咲いていた花の名前を思い出したと言ったら変ですが、夢?みたいな感じで見たんです。まるで、形容するなら、前世の記憶が流れ込んできたような感覚でもあります。
白い大きな花を纏った木が連なる並木道を2人で歩いていたの。
私とソウマ君と並んで歩いていたの。
この花の名前なーに?と私が聞くと、
するとね、ソウマ君が、ん?知らないの?コイキザミだよ?と当然の如く、言ってきて、絶対嘘だよー!と私が切り返すといや、ほんとほんと!ってすぐバレる嘘をついた時の笑顔で言っていて。
季節はいつだったかな、寒かった気もする。ん、前世じゃない。待って、これ、
並行世界とか呼ばれてるやつかもしれないし、わからない。ごめんなさい。並行世界だとしたら、私たちがいるはずの今ともしふたりの歩み方が違ったら、こうなってるんじゃないか、というもう一つの世界。どちらにしても、そこでの2人の記憶が私の中にもう一つの世界をつくりあげました。なんで、いま、こんな話をしているのかわからないけど。なぜか、その記憶のようなものが、本当にあったことなんだと思えてならないのです。長くなりすぎました、読むのがたいへんですよね。お返事できたら、待っています。 愛月 瑠衣”

私は思いつくままにメールを打って、少し悩んで送信した。
心の柵が解けた気がした。

そこから始まった。
私達の反撃が。

会心撃とでも言うべきか、猛攻が。


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