ダイレクトメッセージ#12


思いのほか、早く返信が来た。
職業柄、デジタルデバイスは肌身離さない。
どこにいても、なにをしていても。

仕事の連絡や通達、そういったものや、追いかけている事件の
連絡、全デバイスに行き渡るようになってある。

咀嚼があまり得意ではないので、ゼリーやエナジードリンク、
栄養機能食品やサプリメントで身体を保っている。

私の何の変哲もないメッセージに彼の本音が垣間見えた。
「音楽スタジオで働いている。」
おそらくこの人は嘘が得意ではない。
きちんとどこか背徳感めいたもので心が揺らいでいる。
何気ないタイミングで通話を図らう。
がしかし、ここにきて私の方が揺らいでいる。
事件として、取り扱い追っているはず。幼少の私が追っている?

公私混同なんて許されない。

ここにきて辞の文字も脳裏を過る。

声を聴いた時、驚いた。
男性にしては透き通っている。
話しているのに、まるで歌っているかのような。

そして逃げるかの様に切られてしまった。

猫の声なんてしなかった。
気配すらしない。
黒からイメージする思い出は彼とリンクしている。

そしてもっと驚いたこと。
彼と話す私を私は知らない。二重人格とかではなく。
まるで子供のような私がそこにいた。

自然と話せる。

でも話していく中で彼が電話を切るボタンを押している暇も
無いほどの仕事量を一人で捌いていくのを電話越しに聞いてしまった
こともあり、それからか誇張抜きでオーバーワークなどで
死んでしまうのではないか。という不安に駆られていた。

もうここまでくると彼はMoon Raver のベーシストなのは
疑いようがなかった。

ファンからはミステリアスで~とかで人気だが
これは恋人なら休んでほしいと願うレベルだ。
でもこれが彼の仕事であり、生きざま、存在証明だと言われたら、
取りつく島もない。

彼の毎日は深い藍の草木を掻き分けているようだった。

職業柄か三枚目のシングル「恋文」のラストにも違和感を感じ、
逆再生してみた。ただのノイズだったそれは、私たちに向けられた
メッセージだった。なにか、なにか、言葉にならないなにかを
感じていた。

そしてその予感は悪い方だった。ファンにとっては。

私にとってはこの上ない幸せだった。

Moon Raver の無期活動休止が公式サイトで報告された。

そこから、彼と私だけの世界が始まった。

始まるということは
花に等しく永遠はなく
終わりに近づきだしていた。

初めて手にしたその花の名前すら知らずに。

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