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書籍:奇跡の社会科学

ピープルアナリティクスを勉強する中で、データ分析の方法として社会科学の考え方が使えるとのことだったので、入門書を調べて「奇跡の社会科学」という書籍を購入してみました。

本書は、Amazon評価4.6(2024年5月現在)と高いですが、社会科学の古典を解説している箇所と、それをベースとした著者の意見があることに注意が必要そうです。(政治批評が入っているため、賛否分かれそう)
それを差し引いても、社会科学の古典解説としては極めてわかりやすく、入門書としては良い選択だったと感じました。

社会科学には、政治学、経済学、社会学、人類学などが含まれています。
アイザックニュートンは、「私がかなたまで見渡せたのだとしたら、それは巨人の肩の上に乗っていたからです」と書いたと伝えられていますが、これは、研究成果が先人の業績の蓄積の上にあることを示しています。

自然科学も社会科学も巨人の肩の上に乗ることは同じですが、社会科学は自然科学と違い、進歩が少ない特徴があるそうです。(退歩する場合さえあるとのこと)
そのため、古典から学ぶ価値の高い学問であると著者は言います。
古典から学ぶことは多いと言われますが、社会科学は特に古典が生きる学問領域であると言えそうです。


マックスウェーバー:効率化を追求することが非効率につながる

社会学といえばマックスウェーバーが有名ですが、本書では官僚制についての考察を深掘りしています。
官僚制組織の特徴は「没主観性」と「計算可能性」であり、それにより極めて効率的なオペレーションが可能となる反面、効率を追求しすぎることにより非効率が生まれると言います。
例えば、代表的な官僚組織では、補助金等の申請を受け付ける際には必要な情報を決まった様式(大体の場合無駄に見える項目が多い)で受付けますが、不可抗力(感染症罹患など)により申請期間に1日遅れてしまった場合であっても、期限超過により即時に却下の判断を下します。
これは人による判断の差異をなくし(没主観性)、即時の判断を可能とするあるため、処理主体にとっては極めて効率的で合理的な判断となります。しかしながらこれが無駄の多い融通が効かないお役所仕事として世の中から非効率と捉えられます。

お役所仕事も大規模組織のマネジメントをする上で必ずしも悪いとは言いませんが、過度な標準化や数値化は官僚制の逆機能を招き、却って非効率になるということは、効率化を追求する際に意識しておくべきポイントだと思いました。


エドマンドバーク:抜本的改革は失敗する

2人目に紹介されていたのが「フランス革命の省察」の著書で、「保守の元祖」と言われるエドマンド・バークです。
抜本的な改革は失敗するという主張がなされていますが、なぜかといえば、それは人間が微妙な存在で1人1人の人間もよくわからないのに、抜本的な改革をしてもうまくいかないでしょう、ということです。
過去に革命と謳われた歴史的な出来事を見ても、散々な結果につながっていることから、ある意味実証されている理論とも言えます。
そして、抜本的な改革は気楽であるとも言います。誰もが経験をしたことがない状況では、うまくいっていることを確認するための基準はなく、こういうものだと開き直れば良いから、というのがその理由です。
改革をするためには、すでに結果が出ている既存の制度の良いところを残しつつ、悪いところを変えていくことが必要であり、それこそが本当の保守であると言います。

組織が停滞してくると、抜本的な改革が求められがちですが、人という不確実な要素に対して前例のない改革が成功する可能性は極めて低いということは、念頭に入れておくべきかと思いました。
(一方で、自分が下した選択を正しいことにするための覚悟というのも必要であると思います)


エミール・デュルケーム:自殺は個人の問題ではなく、社会の問題である

他にも何名か紹介されていましたが、特に印象的だったのが、「自殺論」のデュルケームです。
社会学の入門書を何冊か見た限り、必ずといっていいほどデュルケームが取り上げられていたので、社会学に大きな影響を与えた人であると認識しました。

自殺論では、それまで個人の心理的な問題と捉えられていた自殺が、社会環境と関係していることを突き止め、綿密な論理で検証を行なっています。
人間には共同体との絆が必要であることを突き止め、自殺を防ぐには社会秩序に拘束されるなどして「分をわきまえる」「足るを知る」ことが大事だと言います。

感銘を受けたのは、自殺が個人の行動であるにもかかわらず、デュルケームは社会環境との関係性に気づき、データ分析により徹底的に検証することで、自殺というテーマを社会学の領域として取り扱った点です。
今のデータ活用時代にデュルケームが生きていたら、どんな事象をどう捉え、どんな検証をするのかを考えるとまだまだ可能性がありそうだと感じました。そして、このような賢人がどんな思考回路で洞察をしているのかがわかれば、現代に生きる我々が、さらによく物事を考えられる可能性があると思えば、古典を読む価値というのは非常に高いのだと分かった気がしました。

社会学には全く知見がありませんが、本書を通じて面白い学問だと思ったので、浅くてもいくつか本を読んでみたいと思いました。


参考:ピープルアナリティクスの教科書 に関する投稿

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