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本質的なUXデザインこそ、企業価値を最も高めるソリューションだ。|ジョブ理論とデザイン思考について

UX(User Experience = ユーザ体験)デザインの重要性が認識され始め、主にIT企業を中心としてプロダクトや企業価値を高めるために、現場および経営層へ浸透されつつあります。

海外の急成長した企業の中には、Airbnbのように創業者がデザイナーであるというケースも増えてきており、ますますデザインが企業価値に与える影響が大きくなっています。

ただ、実際に目にするケースとしては、UXデザインが本来の本質的な役割ではなく、より狭義の役割においてのみしか用いられていない現場が少なくありません。

例えば、Webサイトやスマートフォンアプリのインターフェースの配色やタイポグラフィ、アニメーションの改善や部分的な操作性といったものです。

確かに、これらもUXデザインの中に含まれるのですが、本来の重要な役割や本質はそこにはありません。

では、UXデザインの本質とは何でしょうか?

UXデザインとは、経営戦略・企業戦略そのものである

UXデザインとは、経営戦略そのものです。

企業はそれぞれ何かしらの製品を持っている以上、顧客体験を高めることが、企業価値を高めることに直結します。

顧客はそれぞれ、自身が達成したいゴールがあり、それを最短で達成したいと願っています。

そのゴールを紐解き、ゴールまでの道筋を設計し、最短で導いてあげることがデザイナーの役割です。

このゴールの設計というのが最も複雑で難しいのですが、UXにおいて最も重要になる部分です。

そこで、このゴールの設計において重要となる考え方を2つご紹介します。

UX設計の本質に関する2つの理論|ジョブ理論とデザイン思考

2つの考え方とは、以下に記載する「ジョブ理論(Jobs To Be Done)」と「デザイン思考」という考え方です。

それぞれ簡単に説明します。

1. Jobs To Be Done(JTBD)

JTBDを一言で言えば、「人はジョブを片付けるために製品やサービスを雇用する」という考え方です。

日本では「ジョブ理論」と呼ばれます。

この「サービスを雇用する」という言い回しは、ちょっと聞き慣れない言い回しですね。

ここでのキーワードとして「ジョブ」と「雇用」というものがありますが、以下の様にイメージして下さい。

・ジョブ→人が持っているニーズ、目標、ゴールといった最終的に成し遂げたいもの。ただし表面的なニーズではなく、社会的、経済的、感情的コンテキストが複雑に絡み合ったもの。
・雇用→JTBD独特の言い回しだが、顧客が自分のジョブを達成する手段として製品を雇っていると考える。

この言い回しは独特ですが、僕は気に入っています。

なぜなら、「ジョブ(ゴール)のために製品を雇用している(使っている)」という形で、顧客のゴールやニーズが常に言葉の主体に来るからです。

ここで1つ、ジョブ理論によって、思わぬ顧客のニーズを見抜き、ビジネスを成長させた有名なミルクシェイクのエピソードをご紹介します。

顧客が欲しいのはミルクシェイクではない。単に退屈しのぎの手段が欲しかったのだ

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意外性のあるタイトルですが、以下のようなエピソードです。

とあるファーストフードチェーン店がミルクシェイクの売上を伸ばそうとしていた。最初は顧客アンケートなどに基づきフレーバーや容量などを増やすといった施策を行ったが全く売上は伸びない。試行錯誤する中でわかったのは、顧客は「ミルクシェイクが好きなのではなく、通勤・通学の退屈しのぎにミルクシェイクを購入していた」という事実。顧客には通勤・通学者が多く、運転中はいつも退屈だし、仕事の前に何かで腹を満たしたかった。そこで運転中でも片手で済み、退屈しのぎにぴったりな長持ちする何かが欲しかった。顧客は「退屈しのぎをしたい」というジョブを片付けるためにミルクシェイクを雇用していたのだ。

ミルクシェイクを提供しているのであれば顧客のニーズはミルクシェイク自体に向いていると誰もが考えてしまいますし、製品の味の改良やプロモーションに多くの経営資源を投下してしまうでしょう。

ただ、蓋を開けてみると、顧客はミルクシェイク自体を求めていたのではなく、退屈しのぎの手段を求めていたのであり、その手段がミルクシェイクだったというのは驚愕です。このような本当のニーズは、徹底的な顧客の深堀りをしなければ見つけられません。

この様に、JTBDは顧客のニーズの本質を捉え顧客に対してどの様な価値をどのように提供すればよいか考えるための有効な理論なので、まさに最良の顧客体験を設計するためには欠かせないものです。

とはいえ、顧客のニーズの本質を捉えることは本当に難しいものです。人間にはバイアスがあるため、過去の成功体験や他社や競合の成功事例に引きずられてしまい、ミルクシェイクの事例のように無意識のうちに顧客のニーズを経営者やマーケターの思い込みで定義してしまうこともあるでしょう。

そこでJTBDを知っておくことで常に顧客のニーズを捉え続ける意識が芽生えますし、ミルクシェイクの事例のように、思わぬものが競合であることが判明し、より広い視野での経営戦略の策定に活かすこともできます。

JTBDは奥深いテーマなのでこれ以上の詳しい解説は割愛し、また別の記事で書きたいと思います。

2. デザイン思考(Design Thinking)

この言葉は一度は聞いたことはあると思います。

人によって解釈が様々で、知人のデザイナーに聞いても色々な答えが返ってきますが、僕が最も納得している定義は次のものです。

Design Thinking = Goal Directed Design.

この「Goal Directed Design」とは、世界的に有名なUX戦略ファームのCooper社が提唱している定義で、僕の解釈は以下の通りです。

人々がとあるコンテキストにおいて成し遂げたい目標とその目標を達成した時に生じる感情や体験を深く理解することを起点とし、そのゴールまでの道筋に適した様々な体験を設計することで、人々の目標を達成を叶えること。そのための一連の設計や過程。

デザインのことを「デザイン=スタイリングだ」という間違った解釈をしている人を見かけますが、デザインとは本来こうした上流の設計を担うものであり、課題解決のためのフレームワークです。

デザイン思考とJTBD(ジョブ理論)の向かう先は同じ

面白いことに、デザイン思考とJTBD(ジョブ理論)はリンクしています。

どちらも顧客の本質的な欲求や目的を理解し、それを達成することで顧客と事業者それぞれに大きなメリットを提供することを可能にします。

顧客の本質的な欲求や目的を理解しそれを解消する価値提供ができる製品をつくることは、言うまでもなく数多くの顧客をその製品の虜にすることができます。

さらに、本質を理解しているからこそ、ビジネス戦略がブレる可能性が低くなります。目標のベクトルが全社的に統一できるため、マーケティング、CS/CXなど各部署において共通言語ができ、本質的な目的に向かうことができます。

その結果、単なる製品のみの顧客体験ではなく、カスタマージャーニー上のあらゆるタッチポイントにおいて、常に顧客の目標達成に直結する一貫した顧客体験を設計することが可能です。

これを達成できれば、間違いなくその製品は顧客に愛されてやまなくなり、長期に渡るブランド・エクイティの構築が可能となり、結果として圧倒的に企業価値が高まることは言うまでもありません。

だからこそ、UXデザインには、企業価値を圧倒的に高めることのできる底知れないパワーがあるのです。

UXデザインの本質を理解し、今日から自社製品の設計に活かしていきましょう。






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