スクリーンショット_2019-08-29_22

3分でわかるアリアン5

8月6日、欧州のアリアンスペースは、通信衛星2機を搭載したアリアン5ロケットの打上げに成功しました。
アリアンスペースは、1980年に12カ国53社が出資(フランス企業が57%)して設立された企業で、欧州宇宙機関(ESA)で開発された「アリアンロケット」を打ち上げています。ロケットの製造自体はしておらず、打上げだけ行っています。

アリアン5とは?

アリアン5は、アリアンスペースが取り扱うフランスのロケットで、ギアナ宇宙センターから打ち上げられます。
液体燃料メインエンジンと2基の固体燃料ブースターによって構成され、地球低軌道(LEO)に19〜20.5トン、静止軌道(GEO)に7トンの荷物を運ぶことができます。ブースターにはパラシュートが搭載されており、一応回収は可能とはなっていますが、再利用はされていません。5G、5G+、5ECA、5ES-ATVといった多数のモデルがありますが、5Gと5G+は現在は使用されていません。1回目と2002年の失敗や2018年の航路ズレを除けば連続して成功しており安定感もあります。衛星を2機搭載できるので、相乗り打上げという形でコストを減らすこともできます。

…というと、地上に帰還するFalcon9や有人打上げを行うソユーズと比べ、これといった特徴がないようにも思えます。
しかし、ソユーズがもともとICBMから開発されたものであるのに対し、アリアンロケットシリーズは純粋に商用衛星打上げ用ロケットとして設計されています(参照:Mark Williamson「ARIANESPACE Thirty years and growing …」Aerospace America, September 2010)。

ユーザーフレンドリーなサービスー打上げリスク保証(Launch Risk Guarantee: LRG)

また、何といってもアリアンスペースでは、万が一ロケットの打上げに失敗した場合に備え、もう一度無償で打上げてくれるサービスを用意しています(Reflight Option)。打上げ失敗の原因がロケット側になかったとしても、打上げ失敗の事実があれば、再度打上げの機会が提供されます。
事業者からすればいち早く衛星を打ち上げたいわけで、後の金銭賠償や保険による処理を待つ訳にもいきません。
他の国や機関の打上げサービスでは、失敗に伴うリスクは自己責任とされるのが原則ですが、このような事業者目線に立ったサービスによって顧客の心を掴んでいるのがアリアンスペースです。

資金調達の支援ーWin-Winの関係

打上げには莫大なコストがかかりますが、アリアンスペースは顧客の資金調達を支援するため、アリアンスペースファイナンスを設立しています。
これによって、衛星ビジネスの新規事業が促進され、アリアンスペースでの打上げ受注にも繋がっています。

米国や日本の打上げルールへの影響

そもそもフランスは、ロケット打上げに伴うリスクに対していち早く対応してきた国です。
1980年になされたアリアン宣言はその現れで、アリアンロケットの打上げ事故によってアリアンスペースが負う責任の範囲を限定し、政府が責任を分担する仕組みが作られました。アメリカもこれを追って、商業宇宙打上げ法を改正して政府補償の仕組みを導入しました。

このような流れによって、打上げ事業者が負う可能性のある責任のうち、保険でカバーできない部分を政府が負担する仕組みの基礎が整うことになります。
日本の宇宙活動法にも同じような制度が規定されており、打上げリスクに対するフランスの考え方が脈々と受け継がれているといえます。

マンガ「Reflight」

冒頭のマンガを作成いただいたのは、昭和が生んだ天才美少女漫画家あんじゅ先生が運営するオンラインサロン「あんマンサロン」に所属するぽっくすさんです。
いつもありがとうございます!

宇宙法、ロケット美少女化という無茶振りミッションにも対応できてしまう「あんマンサロン」はこちら↓

「アリアン5」を形容する「包容力」と「サービス精神」は、フランスのアリアンスペースに対する政府補償と、アリアン5打上げサービス契約の特徴でもある打上げリスク保証をイメージしています。

今回のマンガでは、フランスが政府補償の仕組みを構築してアメリカがそれに追随した経緯や、打上げリスク保証がない場合との比較も踏まえつつ描いていただきました。
アリアン5は劇的に打上げコストが安いというわけではありませんが、大きなリスクを伴う打上げビジネスにおいて、いち早くこのような制度・サービスを導入したフランスとアリアンスペースが獲得した信頼は相当なものでしょう。アリアン5が兵器由来ではなくあくまで商業利用ロケットとして開発された経緯からも窺えます。
官民一体となってリスクヘッジをしつつ輸送手段を構築することが、人類の宇宙進出のためにいかに重要か考える良い例になりそうです。

参考:
・JAXAウェブサイト「アリアン5ロケット」
http://iss.jaxa.jp/iss/launch/ariane5/
・JAXA宇宙情報センター
http://spaceinfo.jaxa.jp/
・Mark Williamson「ARIANESPACE Thirty years and growing …」Aerospace America, September 2010


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?