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3分でわかる安全保障貿易管理

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宇宙技術はもともと軍事技術ですが、技術の発展のためには国際的な取引を伴います。
軍事技術のような慎重な取り扱いが求められるものの取引について、安全保障の観点からはどのようなルールがあるのでしょうか?

安全保障貿易管理とは?ー軍事技術は一般的なルールと区別

仮にロケットや人工衛星を作って打ち上げる場合を考えてみます。
全ての国が打上げ設備を持っているわけではありませんし、ロケットも軌道へ投入できるくらいのパワーがあり、コストも考慮して選ばなければなりません。当然、自国のロケットではニーズを満たせないこともあるでしょう。
その場合、ロケットの部品や衛星を外国に輸出しなければなりません。

しかし、ロケットや人工衛星の技術はもともと軍事技術であり、テロリストやテロ支援国に移転されることがないようにしなければなりません。単なる技術の移転や製品の輸出とは別段の配慮が必要になります。
そこで、軍事技術については一般的な貿易管理ではなく、安全保障の側面からの貿易管理体制が敷かれています。

安全保障貿易管理の枠組みー2つの基本ルール

安全保障貿易管理体制の基本的な枠組みとしては、ワッセナー協定(Wassenaar Arrangement)ミサイル技術管理レジーム(Missile Technology Control Regime: MTCR)です。いずれも強制力はありませんが、安全保障貿易管理の基本的な制度としての役割を担っています。

ワッセナー協定
武器などの取引を管理し、軍事技術の拡散を防止する機能をもちます。参加国は、それぞれ輸出管理体制を構築、軍事技術の拡散を防止する体制を整備しなければなりません。
ミサイル技術管理レジーム
ミサイルやロケット、無人飛行機技術などの拡散を防止する機能をもちます。参加国は、「ミサイル関連機微技術の移転に関するガイドライン」を遵守し、ガイドラインに列挙された製品・技術の移転を規制しなければなりません。

日本の枠組みー外為法(がいためほう)

日本では、「外国為替及び外国貿易法(外為法)」を定め、上記の基本的枠組みを実現しています。
外為法は、武器や軍事転用可能な物・技術が安全を脅かす国やテロリスト等の手に渡ることを防止する管理し、国際平和と安全の維持を実現することを目的としています。
具体的には、機微技術を輸出するには経済産業大臣の許可が必要になります。

外為法の基本的な仕組みは、リスト規制キャッチオール規制です。2つの規制を組み合わせて、許可の対象となる製品・技術かどうかが判断されます。

リスト規制
リスト規制は、軍事転用の可能性が高い一定の製品・技術について、一律に経済産業大臣の許可を必要とするものです。例えば、化学兵器、ミサイル関連品目などがこれに当たります。
リスト規制にあたるかを判定することを「該非判定」といいます。
キャッチオール規制
リスト規制の対象でないからといって、許可が不要となるわけではありません。リスト対象外の製品・技術についても、大量破壊兵器の開発・製造・使用・貯蔵に用いられるおそれがあるとき、通常兵器の開発・製造・使用に用いられるおそれがあるとき、それらのおそれがあるとして経済産業大臣から通知を受けたときは、経済産業大臣の許可が必要となります。

アメリカの枠組みー武器取引規則(International Trafficking in Arms Regulations: ITAR)

アメリカでも、武器輸出管理法武器取引規則の独自の規制を設けています。武器輸出管理法は、文字どおり武器関連資機材の輸出やテロ組織支援国との取引を規制する法律で、武器取引規則は武器輸出管理法の細かい点を具体的に定めるものです。「合衆国武器リスト」に列挙された製品やサービスについて国務省の承認がなければ輸出・輸入をすることができません。

なお、1996年に発生した長征3号Bの打上げ失敗と、その後のスペースシステムズ・ロラールの情報漏洩事件(輸出管理規制違反の点は明らかにならないまま和解で終了)をきっかけに、衛星技術についてもITARが適用されるようになりました。

ITARは、アメリカからの全ての輸出に適用され、製品の製造地がアメリカかどうかは関係ありません。また、アメリカから輸出された製品をさらに他の国に輸出する場合も適用されます。
そのため、例えば日本のメーカーがアメリカから輸入した部品を使って製品を製造し、他国に輸出する場合にはITARが適用されるので、国務省の許可が必要となります。

参考:
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦
・これだけは知っておきたい!弁護士による宇宙ビジネスガイド 第一東京弁護士会
・U.S. Export Control
・国際政経論集(二松學舎大学)第16号(2010 年3月) 「米国における両用技術としての商用人工衛星の輸出規制と中国─安全保障と経済のはざまで─」 髙木綾
・日本国際政治学会編『国際政治』第179号「科学技術と現代国際関係」(2015年2月) 「技術貿易をめぐる国内政治プロセス」ー米国の対中商用人工衛星の輸出規制に内在する安全保障と経済ー 髙木綾

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