「飲食業界のマイナスイメージを変えたい」理想の先にあったのはSDGsだった
株式会社イデアルを経営しています、和田 亮(わだ りょう)です。
「食欲の秋」なんて言葉が聞かれる季節ですが、10月は「食品ロス削減月間」でもあります。
「食品ロスの削減」は、近年話題になっている「SDGs」における取り組みの一つ。当然イデアルでも、食品ロスの削減をはじめとした持続可能な社会への取り組みに参画しています。
しかし、実は「SDGsに取り組もう」とはじめから思っていたわけではありません。「飲食業界を変えたい」という理想を追い求めた結果、SDGsとリンクしている部分が多いことに気付いたのです。
そこで今回は、SDGsを考え始めたきっかけや、飲食店経営者として食品ロス削減のために取り組んでいることについて書きたいと思います。
飲食業界を変えたい。イデアルの社名に込めた想い
飲食業の働き方や待遇を一般企業と同じレベルにしたい。それが、私が飲食店経営者になって一番初めに掲げた目標でした。
飲食業はとてもやりがいのある仕事。でも多くの職場では、過酷な労働環境が強いられているのも現実です。せっかく志を持っている人も働き続けることができず、飲食業界から離れてしまうことも少なくありません。
私が飲食店で働き始めた30年ほど前は、今よりもっとイメージが悪いものでした。学校教師をしていた両親からは「あなたを水商売に就かせるために私達は頑張ってきたわけじゃない」と言われるほど。その位、当時の飲食業界にはマイナスなイメージが強かったのです。
飲食業界のネガティブな状況を少しでも変えたい。過酷な労働環境を改善して飲食業界のイメージを変えることで、働く人を増やしたい。
そんな理想を実現するため、「理想」を意味する単語「ideal」から「イデアル」という社名を掲げることにしたのです。
理想を叶えるために、イデアルでは様々なことに取り組んできました。
労働時間を改善して休みを増やす。男女が平等に働き、評価される仕組みを作る。厳しい上下関係や昔ながらの師弟関係を無くし、スタッフ全員の声を拾う。社長だけではなくスタッフにも利益が行き渡るようにする。
そんな風に、全員が働き甲斐を感じられる職場づくりを考えてきました。最近分かってきたのは、この考え方や私の目指す理想が「SDGs」と非常にリンクしていること。
全員が平等で、健康的で、安心して長く働ける環境をつくる。その取り組みは持続可能な社会への取り組みに通じているように思います。
SDGsには17の目標が掲げられてます。
イデアルでは、飲食業の理想的な環境を叶えるために、まずは5.8.12.14.15.に取り組んでいます。
消費者優位の日本におけるフードロス問題
私がSDGsに出会ったのは、まだ日本ではほとんど知られていなかった2010~2011年頃のこと。
当時、自己の成長のために活動していた青年会議所で、マラリアの撲滅運動に取り組むことに。アフリカの子どもたちに蚊帳を買って届けるための、募金運動を計画しました。SDGsの17の目標のうち3番目『すべての人に健康と福祉を』に基づく活動です。
しかし、ようやく決議を終えた2011年の3月。さあ始めようと思ったときに東日本大震災が起きたのです。
当時の日本にはかつてない衝撃が走り、自分たちの明日のことすらどうなるのか分からない状況。当然、活動は中止せざるを得ませんでした。
「被災地の状況を何とか世界に発信しなきゃいけない。」未曽有の災害を目の当たりにし、何かしなければと感じ、青年会議所のメンバーと話し合いました。その中で出たのは、困難な状況で頑張っている姿を子どもたちの言葉で世界に届けること。
そこで被災地の子どもたちを何人か国連に連れて行き、日本の将来の希望として世界に向けてスピーチしました。これが、今でも続く『少年少女国連大使』です。
この取り組みに立ち上げメンバーとして参加したことをきっかけに、世界の環境問題や人道問題について知り、考える機会が増えました。そのおかげで、人よりも早くSDGsについて学ぶことが出来たのだと思います。
起業家として、そして地球に暮らす者の責任として、SDGsには取り組むべきだと身をもって感じました。
SDGsの中には、飲食店経営者として身近に考えるべきものがあります。17の目標のうち12番目『つくる責任、つかう責任』。いわゆるフードロス・食品ロスの問題です。
飲食店の立場から言うと、食品ロスにを見直すポイントは大きく分けて二つあると思っています。一つは、食材をロスなく使い切っているか。もう一つは、お客さんが食べきれない量を提供していないか。
とくに問題なのは後者だと思います。その理由は、日本の飲食業界における“消費者優位”の考え方。日本には、お客さんが頼みすぎたものを止められない風潮があります。
例えば、近年デカ盛りや大食いがテレビなどで人気です。たとえ大量に食べ残しが出たとしても、お店側はなかなか止めることができない。なぜかというと、それでお客さんが喜ぶし、店側も儲かるからです。
食べ放題やデカ盛りがもてはやされてる現状、そもそもロスに繋がるような消費の仕方。これを見直す社会にするには、まだ時間がかかると思います。
ロスを生まない食材の使い方・管理・伝え方の工夫
食品ロスの削減には“そもそもロスを生まないこと”が重要なポイントだと思っています。食材をいかにして使い切るか。それはイデアルでも大きな課題として取り組んでいます。
ポイントは食材の使い方・管理の仕方・伝え方にあると思います。
①使い方の工夫(調理方法)
まずは食材の使い方について。ロスを削減するために、大きく分けて3つのことに取り組んでいます。
1つ目は、余った食材を上手く活かすこと。なるべくロスが出ない仕入れを心がけていますが、時にはロスが出てしまったり、予定外の食材の買取を頼まれることも。
余った食材には上手く手を加えて『お通し』に。また『今日のオススメ』として、即興で料理を考えて提供することもあります。
2つ目は、食材を余すところなく活用すること。和食においては、“野菜をはじめ、食材には捨てるところはない”という考え方を基本としています。
例えば野菜の皮やタネも、他の調味料と合わせてぬか漬けのような野菜床を作る。そこに鶏胸肉などを漬けてから蒸したりすると、野菜の旨味が肉に染み込んでとても慈悲深い味になります。
同じように、野菜をカットした時に出る皮やタネなどは「ベジブロス」という出汁にしたり、魚介から出る骨やアラは味噌汁にしたり。お肉の骨も出汁にして、食事前にお客様のお腹(胃)を温めてもらうために提供しています。
そんな風に、捨てられてしまう部分もひと工夫を加えることでロスを避けられるのです。
3つ目は、食材選び。とくに野菜は、自然栽培のものや質が良いものは日持ちも良く、ロスになりにくい特徴があります。そのため、仕入れのときにはより品質の良いものを買うように指導してます。
普段からよく伝えるのは「とにかく美味しい食材は好きなだけ買って良いけど、必ず余らせずに美味しくお客様に食べてもらえるようにする」こと。
スタッフに対して食品ロスの特別な研修はしていません。野菜くずや魚のアラを使った料理などを実際にメニューに入れておくことで、体験的に学ぶことが大事だと思っています。
②管理の工夫(原価管理)
イデアルでは、カフェ以外では全ての店舗でコースがあります。コースは事前予約で消費量が分かるため、ロスはほとんど出ません。お客さんの食べ残しの量をみて、次回のコースの量などを調整することもできます。
アラカルトメニューのみで当日何が出るかわからない状態の営業よりは、ロスが少ない営業形態です。
また月末には、理論原価(レシピ通りに調理が行われたときの食材費の合計金額)と実質原価(実際の食材費)の差異を調べて、ロスがどのくらい出てるか把握するようにしています。
その差には、例えば作り間違えによるロスとか、まかないを食べ過ぎているとか、盛り付けすぎているとか、様々な理由があります。それを突き止めることが、ロスの原因究明に繋がります。
提供する値段は上げずに原価率を下げるにはどうするか。結局のところ、買ってきたものをいかにして全部使うかが大事なのです。
③伝え方の工夫(言葉選びとネーミング)
食材の使い方と合わせて大切にすべきなのは、伝え方と売り方。
ただ「これ余ったので安くします!」と言って売るのか。それとも「こちらは新鮮な魚の美味しい皮と骨の周りの部位を、ぬか漬けにしてさらに旨味を増したもので、焼いて旬の野菜と和えてあります。温かいうちにお召し上がりください」と伝えるか。両者で印象が全く違うはずです。
それから、ネーミングも非常に重要な要素です。たとえば「牛の臓物」なんて言うより、「ホルモン」の方がキャッチーですよね。他にも、馬肉のことを桜肉と呼んだり、豚の脂の乗った首の部位を豚トロって呼んだり。これは日本人の素敵な知恵だと思います。
メニュー名も同じです。分かりやすくキャッチーな響きであるのと同時に、分かりやすくイメージできることも重要です。
例えば「ブッラータチーズ」と初めて聞いたとします。名前だけだとどんなチーズなのか、堅いのか柔らかいのか、イメージしにくいですよね。
でも「生モッツァレラチーズ」と言われたら、どうでしょうか。よく知らなくても、言葉から何となくイメージできると思います。そんな風に、キャッチーかつイメージできる名前をつけることで、お客さんの“食べてみたい”を引き出すことができます。
お客様が満足するかどうかは、どれだけこちらが手間暇かけて仕上げて説明できているか。料理人の知識と経験が深ければ、ロスなくお客様満足度を高めることができるのです。
食材は余すところなく使う。料理人としてのこだわりの原点
「持続可能な社会のために食品ロスを減らしたい」という想いはもちろんあります。でもそれ以前に、私の根底には「食材を無駄にしない」という料理人としての信念があるのだと思います。
この考えがしみついている理由は、20代の頃、居酒屋『旬魚酒菜 五郎』の先代の社長からの教えが大きいと思います。
先代の社長はとにかく食材を無駄にしない人でした。
例えば氷。昔は製氷機がお店に無かったので、夏になると社長の知り合いのバーに行って氷を買っていました。ある日、たまたま忙しいときに急いで氷の袋を開けたら、バラバラと氷が床に落ちたことがありました。
忙しかったこともあり、パパっと足で蹴って避けたところ「何やってんだ!洗って使え!!」と社長にものすごく怒られたのです(実際は洗っても使えないのですが)。おそらく、氷を無駄にしたことそのものよりも、「これくらいはいいや」と足で蹴った私の行為に対して怒ったのだと思います。
また、先代の社長は魚のアラなども全て冷凍庫に保管していました。ただし、魚種を分けず血合いなども一緒になった状態。このままだと臭みもあり、なかなか料理に使いにくかったのです。
この出来事をきっかけに、私は捌いたときにきちんと分別するようにしています。血合いも取ってお湯に通して、臭みも抜いてしまう。それで冷凍しておくと、使うときに臭みがなくなり、調理もしやすいのです。
ゴミはきちんと分ければ資源になるように、食材も仕分けが大事。魚のアラもただ取っておくだけではゴミとして捨てられてしまいますが、骨は骨として骨せんべいにしたり、皮は皮でカリカリに焼くと美味しかったりします。
丁寧に仕分けすることで美味しい価値として提供できる。きちんと手間をかけてあげることで、美味しくいただけるようになります。
たとえば上記は「越後濃厚魚骨つけ麺」。
スープは、箱に山盛りの新鮮な佐渡前魚介の骨からたった10杯しか取れません。
新鮮な魚骨から、丁寧に血合いや鱗などをとり、手間暇かけて臭みを抜いていきます。
しっかり血と臭みを抜き、半日以上ぐつぐつ沸騰させて魚骨の旨みを全て出し切ります。
仕上げに加えるのは、ひとつまみの鰹節と、新潟県阿賀野市のコトヨ醤油「延喜」というお醤油を数滴、そして柚子の皮のみ。魚介に含まれる塩分やミネラルがあり、じっくり煮詰めるので使う調味料は最小限にしてあります。
スープも具も麺も、添加物は一切使用しておりません。
職人が手間暇かけて1日10杯しか作れない、越後の魚介の旨さを凝縮させ、旨味を最大限に引き上げた、完全無化調無添加の至極の一杯となっております。
このように、普段だと捨てられてしまう魚の骨もしっかりと手間暇かける事で究極の味を引き出せるのです。
物を捨てない。そんな昔ながらの“もったいない精神”が、和食料理の根底にあるのだと思います。
フードロスの削減には、様々な課題があります。SDGsの17の目標で『つくる責任、つかう責任』とあるように、料理を作る側・食べる側、双方の意識を変えていかなければいけません。
私たちは「作る側」として、食品ロスを少しでもなくすための工夫をこれからも続けていきたいと思います。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
引き続きお店や会社のことをnoteに記していきたいと思っています。ぜひチェックしていただければと思います。どうぞよろしくお願いします。
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