人材不足の話。
今企業の悩みを聞くとまず出てくるのは、人材不足、つまり採用である。一言で言えば、採用募集をかけている。だが、募集に応募する人がいない。給料はそこそこ。仕事も辛すぎるわけではない。だが来ない。いや、正確にはたまに来る。来てくれる。だが、若い人を中心にすぐに辞めてしまう。そしてまた募集をかける。だが来ない。いや、正確には来るのだがすぐに辞めてしまうのだ。これが、人材不足である。
「あの人辞めるってさ」
「また?今月に入ってから何人目?」
「根性がないんだよ」
「いや、あの人めちゃくちゃできる人だったよ?」
「できる人ほどすぐに辞めていくんだよね」
人材不足は時に企業の未来を脅かす。なぜなら、職場の平均年齢は上がり続け、ついには誰もいなくなる。最近そのような話は、実はまあよく聞く話だ。僕の所属する魔法士営業所第1グループはその筆頭だ。なぜか、つらい、きたない、などのマイナスイメージが続く。同業者達もこないだの冒険者ギルド主催の転職フェアでもボヤいていた。あの、駅前のあの会社はいつまで持つのかわからない…。
「いまどきなんでもスマホですよ」
「わざわざ魔法なんて買おうなんて思わないよね」
「スマホでそれっぽいのができるって」
「…あ」
そんなふうに飲み屋で同期とボヤいていると、ふと、見覚えのある高齢の男の魔道士の顔が浮かんだ。
「あの人、前に来たあの人」
「ああ、あの人?」
「え?誰?」
「誰の話?」
その人はとあるフェアで応募してきた人で、自分よりも年上の男性だ。家族を養わなくてはならないとひどく疲れた顔をしていた。魔道士営業に経験があり、給与面で渋い顔をしていたが、最終的には弊社の部長判断に委ねられた。だが。
「あの前に来たファムとかいう男性、どうなったんだろ?」
「え?ファム?」
「あの地味な感じの?採用しなかったんだ?」
「部長が年齢を理由に渋ったらしい」
「やる気はありそうだったよね?もったいない」
年齢が高齢になってくると働く理由はより現実的になる。避けては通れない現実だ。だから働くことに対するモチベーションは決して低くない。そして、採用されれば辞めないだろう。だが、いくら働く気持ちがあっても採用してくれる職場は少ない。せめて彼だけでもいてくれれば、まだ今の悩みはなかったかもしれないのに。
「人材不足、人材不足ってよくいうけど、選り好みしすぎだっての」
「でも長く働いてくれる人の方がいいじゃん」
「それで若い人にしたじゃん?すぐ辞めてるだろ」
「まあそうなんだよね」
「……探しに行くか。」
仲間のひとりが言った。え?君何言ってるの?
「住所わかるやん。今から……行ってみようぜ」
「おいおい個人情報よ」
「だってさ?このままじゃ、しわ寄せが俺たちにくるじゃん?それならさ、まだあの人の方が」
「まだ探してるかな」
「まあ、聞いて見りゃわかる。ダメ元で」
「部長には?」
「誰か代わりを見つけてこないとその方が怖いだろ笑」
「それもそうか笑」
住所は知っている。隣町だ。海の見える港町。昔から魔道士たちが沢山住むという都市、ミシディア。今から行けば夜には着くだろう。ついでに、白魔法営業法のコツなんかも聞いてみるかな。だって、得意らしいから。
Fin
ファンタジー☆☆☆☆☆☆★★★★
サンプルシナリオ ロールプレイ
作:ムジカ