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no.5/キツネくん、悲しい事実に気づく【日向荘シリーズ】(日常覗き見癒し系短編小説)

※目安:約3200文字

【築48年昭和アパート『日向荘』住人紹介】
101号室:ござる(河上翔/24歳)ヒーロー好きで物静かなフリーター
102号室:102(上田中真/24歳)特徴の薄い主人公
103号室:たくあん(鳥海拓人/26歳)ネット中心で活動するクリエイター
201号室:メガネ(大井崇/26歳)武士のような趣の公務員
202号室:キツネ(金森友太/23歳)アフィリエイト×フリーターの複業男子
203号室:(かつて拓人が住んでいたが床が抜けたため)現在封鎖中


 小さな頃から本ばかり読む事が多かったというたくちゃんは、子供の頃に流行っていたゲームやアニメ、漫画とかをあまり知らない。
 それから、主にヒーロー路線だったござるくんも、守備範囲は狭い。
 メガネくんは、何の疑問も持たず勉強ばかりしていたようで、タイトルくらいは聞いたことあるけど……という程度だそうだ。
 俺に至っては微妙に記憶が欠落していて、余暇までいちいち覚えていない。
 けど、日向荘の人々は知らない事も覚えていない事も、何か悪いことみたいに言う人たちじゃない。

「えーーっ、じゃぁ僕だけッスか? ピカ○ュウとかジバ○ャンとか見てたのって?」

キツネくんが大きな驚きの声をあげる。

「ピ○チュウはさすがに俺も名前くらいは知っている。ゲームも流行っていて、学校で話題にならない事はなかったから耳には入っていた。しかしジ○ニャンは世代じゃないな。残念ながら全く知らん」
「まさかの! ジェネレーションギャップっスか?」
「ごめんである、僕も世代じゃない気がするである」
「俺は妹がいたけど、女子人気があったかどうかは知らない」
「確か高校生にはなっていたはずであるから、僕の世代だとピカチ○ウ派が圧倒的である」
「え? ジバニ○ンって確か中学生の頃じゃなかった? ピカ対ジバで派閥があった気がする」
「俺が調べてやろう」

 俺とキツネくんとござるくんが、学年の噛み合わない話をしていたら、メガネくんがスマホを取り出して何やら検索を始めた。その間も、たくちゃんはついていけない話にポカンとしている。これだけ静かなのは珍しい。

「2013年だそうだ」
「何がッスか?」
「ジバ○ャンのゲームが発売された時期だ」
「……10年前か」

 俺は、この頃の記憶が一番曖昧だ。厳密には数年前までの記憶全部怪しいけど。

「やっぱり中学生だった。中二」
「ですよね、僕中一の夏休みにやり倒しましたもん! 昼はバンド練習で夜はゲーム!」
「宿題はいつやってたであるか」

 俺とキツネくんは一歳違いだと認識している。プライベートな事や過去の事はほとんど話さないけど、話の流れで大体の年齢はなんとなく知っている。俺とござるくんが二十四歳でキツネくんが二十三歳。メガネくんとたくちゃんは、意外にも同年最年長で二十六歳。

「だからであるか。僕は受験生だったから、認識したのが高校生であったのかも知れないである」
「え?」

 同い年じゃなかったっけ? なんとなく声にできなくて、ござるくんをゆっくり見る。

「あ、僕は102氏と同じ二十四歳ではあるが、早生まれなのであるよ」
「へぇ」
「えっ? ござるくん、何月生まれなんスか?」
「三月。三月三十一日である」
「おお! ギリッスね!」
「でも、本当のギリは四月一日生まれなのである」
「それじゃぁ、俺と一ヶ月も違わないのに学年違うってこと?」
「102さんはいつなんスか?」
「四月二十九日。祝日だからさ、学校で絶対スルーされるやつ」
「え? え? ござるくんが三月生まれで102さんが四月生まれ。僕実は五月生まれなんスよ。五月二日でゴールデンウィークの谷間なんで忘れられちゃうんスよね。誰か六月生まれいたりします?」

 キツネくんがキョロキョロ該当者を探していた視線をたくちゃんのところでぴたりと止めた。

「あ、たくあんさん! お誕生会しましたよね! 六月の初めの頃!」

 そう。その頃タイミング良くたくちゃんの保険証が乱雑に置かれているのをキツネくんが発見して、流れで誕生日祝いをしたんだった。

「おう! 六月六日、悪魔の数字。恐怖の日だ! ヒーーーーヒッヒッヒ!」
「確かに、拓人はまるで悪魔だな。その流れで言うと、俺が七月二十六日生まれだ。あれだな、俺も夏休み中だから認識すらされないタイプだった」
「えー、やばぁ。もう8月だし、ちょうどみんな誕生日終わっちゃってるじゃないですか! たくあんさんだけお祝いしたのに!」
「来年もあるじゃねーか! ハッハッハ! せいぜい悪魔の誕生日は忘れないようにしろよ!」

 誕生日、三月から七月まで毎月続いていたとは驚いたな。ついでに、俺とござるくんの学年が違うのだとしたら、学年もキツネくんからたくちゃんたちまでずっと繋がっているのか。

「そうしたら、誕生月も学年も、みんな繋がってて、楽しいッスね! 僕学校でみんなと一緒の部活とかだったら、絶対楽しかったと思うんスよ!」
「……それは、今だからいいのではないであるか? まぁ、楽しそうではあるけども」
「大体、その計算でいくとキツネは同じ学校に在籍できないぞ」
「えっ? メガネさん! どうして?」
「事実、俺たちが高校生であるならば、キツネは唯一中学生だからだ」
「!!!……!?」

 重要な計算ミスに気づいたようで、ピシッと音が聞こえそうな表情でキツネくんが固まった。

「ッヒャーーーーッハッハーーー! ヒーーーヒヒヒ、メガネ、それじゃぁキツネが可哀想だぜ!」

 急に元気を爆発させたたくちゃんが大きな声で笑う。さっきまで固まっていたキツネくんは、今度はぷぅっと膨れて、笑うたくちゃんを黒縁メガネ越しに睨んでいる。

「俺とメガネが高校三年だと、ござるが二年、いっちゃんが一年。ブハッ! キツネ! 残念だったな、中三で受験生!! ヒヒヒヒヒ!」
「ほう、意外と年が離れていたんだな。拓人がガキ過ぎて、キツネと大差ない印象だったが」
「その年頃でこの年齢差だと、確かに話題も噛み合わないである」
「なぁ中坊、受験頑張れよ? 俺とメガネは卒業しちゃうけど! ヒャヒャヒャ」
「だまらんかーーーっ! 仲間外れなんかにしてかんねーーー!」

 あ、取り止めがなくなってキツネくんがキレた。……これは、どこかの方言?

「……あれ?」

 まもなく、何かを思い出したようにキツネくんの機嫌が直った。

「僕高校一年生の時、お姉ちゃんにたくあんさんの本勧められたんスよ。その時既にお姉ちゃんはたくあんさんの大ファンだったんすけど、いつから小説書いてたんスか?」
「あー、いつからだっけなぁ。最初に書き始めたのは中二の頃だけど、ちゃんと書こうと思って色々調べ始めたのは高校入ってからじゃなかったか?」
「へぇ! 凄いッスね!」
「てことは、キツネが高校に入学した頃には、俺ここに住んでるのか。すげーな」
「そうなんスか!!?」

 そんなやりとりを指折り数えながら、ござるくんがモジモジしている。

「実は、僕も大学入学の時ここに住み始めたから、ひょっとすると、たくあん氏の翌年入居である」
「まさかの古株……」

 っていうか、大卒だったのか。

「そうなの!? 俺全然気づかなかった! 101号室と203号室じゃ、一番離れてるし、会うこともないか。まぁ都内の一人暮らしなんてそんなもんだよな! ヒャハハハ!」
「それにしても、僕だけ中学生だなんて、ちょっと悔しいッス」
「ごめんてー。そんなに気にすんなよ〜」
「中高一貫校というのもあるであるよ!」

 ござるくんが苦肉の策を出して、少しキツネくんの表情がにこやかになる。

「じゃぁ、もしみんなで部活やるとしたら何がいいスか? 僕軽音部!」

 最年少らしく可愛らしい笑顔で、早速新しい質問を投げかけてきた。

「実生活にも役立つ料理部だな。拓人の好きな卵料理もスイーツも作れるぞ」
「そんなの、上手いやつとかプロが作ったやつを食うのがいいんだよ。部活といったら文芸部か漫研だろ!」
「えー、めっちゃまとまりないじゃないスかぁ」
「僕は特撮研究部である」
「ござるくん、それ何やる部活ッスか?」
「俺は……帰宅部?」
「このメンバーで部活とか、やっぱ無理ッス!!」
「ん、いっちゃん。まず、趣味を作ってみようか!」

 ……たくちゃん、あなたの人生を変えたシリーズ小説、確か『帰宅部シリーズ』じゃなかったか? 帰宅部ナメんなよ。



[『キツネくん、悲しい事実に気づく』 完]

※次回は9月8日(金)20:00頃更新予定です!

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